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第46話 彼女は、俺に告げる

「空見!」

「空見ちゃん!」


 すると、物陰に潜んでいた二人の生徒が飛び出してきた。

 海瀬と手賀先輩だ。対照的な二人の顔には、全く同じ感情が滲んでいる。

 どうやら、心配してくれていたらしい。


「ごめん、二人とも。何かもう少し、上手く出来れば良かったんだけど……うわっ!?」


 唐突に、海瀬が俺に抱き着いてきた。

 だけどそのハグは、恋人同士がするような湿度が高いものではなくて。


 迷子になった子供や、家から脱走した猫を見つけた時のような……全力の抱擁に似ていた。


「……バカだな、空見は。嫌な役を押し付けられたんだから、もっと怒れよ。しまいには全部自分一人でやったことにしやがって。格好つけるなよ、バーカ」


 好き放題言ってから、海瀬はすぐに身体を離す。

 そして今度は拳を突き出して、笑ってくれたのだった。


「だけど初めて、お前のことを格好いいと思った。夏菜のために頑張ってくれてありがとう、空見」


 俺は自分の拳を軽く突き合わせてから、海瀬に苦笑を返す。


「頑張ってくれたのは海瀬と手賀先輩だよ。二人が居なかったら、何も出来なかった」


「それは違うよ、空見ちゃん」


 手賀先輩は少しだけ背伸びして、俺の頭に手を置く。


「誰か一人でも欠けていたら、きっと何も出来なかった。ウチらが三人揃って頑張ったから、名雲ちゃんを助けることが出来たんだよ。まあ、最後に自己犠牲丸出しでウチと海瀬ちゃんのことも庇ったのはやりすぎだけどねー。ふふっ」


 手賀先輩に優しく撫でられて、不思議と心が安らいでいる自分が居た。

 やっぱりこの人は、俺にとってちゃんと年上で『先輩』だ。


 やるべきことを終えた俺たちは、互いの顔を見合う。

 これでどうにか、名雲さんが帰ってきてもいつも通りの日々を送れるかな。


「よーし! 今日はこの後、三人で打ち上げに行こう! お姉さんが二人を良い店に連れて行ってあげる! 本格イタリアンのレストランだよ!」


 ハイテンションになった手賀先輩に、海瀬はちょっと引き気味だ。


「そこ、ドリアとティラミスが人気のお店じゃないですよね?」


「どうかな? だけど店内に壁画も飾ってあって、雰囲気ある店だよ! ちなみにウチのオススメはカタツムリを焼いたやつ」


「ちょっとメニューを和訳するだけでゲテモノを出す店みたいになるの、最悪すぎ。アタシも嫌いじゃないですけど。あ、空見も暇なら行く?」


「手賀先輩が三人で行こうって言ってくれたのに、『一応こいつにも声かけてみるか』みたいな感じで聞くなよ。やっぱりお前俺のこと嫌いだな? ん……? ちょっと待ってくれ」


 ポケットに入れていたスマホが継続的に振動していることに気付く。

 メッセージの通知じゃない。誰かからの電話だ。


 二人から距離を取って、画面を確認して声が出そうになる。


 深呼吸をしてタップし、通話を繋げると――。


『もしもし? 久しぶりだね、空見君』


 発信者は、名雲さんだった。


「久しぶり……でもないけどな。まだあの文化祭から四日しか経っていないし」


『あれ、そうだっけ? 最近は君と過ごす時間が多かったからかな。ちょっと話していないだけでも、随分ご無沙汰な気がしちゃって』


「それはまあ、俺もそうだけど。ところで、どうして急に電話を? 家の都合で休んでいるって海瀬に聞いたけど」


『うん。だけどさっき、クラスのグループに面白いメッセージが来ていたのを見てね。空見君とその感想を共有したくて、つい電話しちゃった』


 スマホの向こう側で、名雲さんがどんな顔をしているか容易に想像がつく。

 いつもみたいに悪戯っぽい、俺をからかうような笑顔だろうな。


「俺もさっき見たばっかりだけど、中々面白いメッセージだったな。伊藤さんに一体何があったのか分からないけど」


『え? 空見君、クラスのグループに入っていないのにメッセージを見ることが出来たの? 一体どうやって? ハッキングとか? ねえねえ、教えてよ』


 やられた。いや、完全に墓穴を掘っただけだが。


「……海瀬に見せてもらったんだよ」


『そっか、そうだね。そういうことにしてあげよう。君は本当に面白いね。あはは』


「からかうためだけに電話をしてきたのか? それなら切るぞ」


『君が知っているように、私はそんな酷い女の子じゃないよ。金にがめつくてクズかもしれないけどね。あのね、空見君……私のために頑張ってくれて、ありがとう』


 その一言を聞いた時に、胸の奥から熱いものがこみあげてきそうになる。

 感謝されたいわけじゃなかったけど、彼女の力になれたことが、ただ嬉しかった。


「いいよ、別に。俺が好きにやっただけだから」


『相変わらずだね、君は。ついでに美波ちゃんと手賀先輩にもお礼を伝えておいてくれるかな?』


「そこまでお見通しなのかよ……実は学校に来ていたのか?」


『ううん? だけど君一人じゃきっと、もっと無茶なことをしていただろうから。ただの直感だよ』


「本当に、敵わないな。だけどお礼は二人に直接会って言うべきだ。そろそろ学校には来られるのか?」


『ごめん。多分、私はもう二度と()()()()()()()()()()()と思う』


 全く予期していなかった、その言葉が。

 ただひたすらに、自分の聞き間違いであることを願っていたけれど。


『さようなら、空見君。今までのことは、どうか忘れてね』


「待ってくれ、名雲さん――!」


 何か言葉が浮かぶよりも先に、一方的に通話が切られてしまったのだった。



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