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第42話 クズな彼女は濡れ衣を着せられた

「鞄からモバイルバッテリーを取り出して、接続しただけか」


「運悪く、嫌なタイミングで立ち止まったみたいだね。少し秒数を戻せば、その写真みたいに『男と並んでいる瞬間』を偽装出来るかも?」


 そう言って手賀先輩が動画を少し戻して、コマ送りしていく。

 すると、数十秒前に名雲さんの隣をスーツ姿の男性が通り過ぎていくのが見えた。

 不運なことに、ジャケットとパンツが俺たちの制服と似ているカラーだ。

 背格好も俺と似ていると言えば似ている。


「確かにこれなら、わざわざ合成写真とかAIで偽装する必要も無いな……しかし、一体誰がこんな写真を」


「悪い、空見。ちょっと()()()()()わ」


 俺が言葉を言い終えるよりも先に、隣に座っていた海瀬が立ち上がる。

 怒気を超えて殺意を滲ませたその顔に、気圧されそうになったけど。


「待て、海瀬! 急にどうしたんだよ!?」


「あ? どうもこうもあるか! その写真を撮った奴が分かったから、今からブン殴りに行こうってつもりだよ!!」


 感情を露わにしている海瀬をどうにか抑えつつ、俺は画面を再確認する。

 何か見落としていたところがあるだろうか? 

 一時停止されたままの画面を注視していると、そこに不審な挙動をしている人物が居ることに気付いた。


 まさか、こいつが――?


「いいから座りなよ、海瀬ちゃん」


 今にも暴れそうな海瀬を鎮めたのは、意外にも手賀先輩だった。


「犯人が分かったところで、殴って解決するなんて最悪の選択だよ。あなたはそれで気持ち良くなっても、一撃入れた代償に停学か、下手をすれば退学。そんな結果に名雲ちゃんが喜ぶと思う?」


 理路整然と悪い結果を予測し、語る手賀先輩は極めて冷静だ。

 図書室で見る姿とは、全然違う。

 可愛げのある笑顔や、隙あらばおふざけを挟み込む彼女は、実に年上で『先輩』らしさに満ちていた。


「……すみません、手賀さん。アタシはどうでもいいけど、夏菜に悲しい顔はさせたくないや」


 海瀬は目を瞑ってから深く息を吐き、改めて椅子に座り直す。

 名雲さんの名前を出したことで、感情をコントロール出来たみたいだ。


「ん、よろしい。仮にこの動画を見せてそいつを糾弾したところで、効果は薄いからね。しらばっくれたら終わりだし、スマホにデータが残っていなかったらいくらでも逃げられる。まだまだウチらに勝ち目はない。引き分けすら怪しいね」


「じゃあ、俺たちは一体どうすれば……?」


「目指すは()()()()だよ、空見ちゃん。勝利条件はただ一つ。その相手に稚拙な悪戯をしたことを関係者全員の前で自白させて、名雲ちゃんに謝罪させる。そのために、君たち二人に……というか、海瀬ちゃんに手伝って欲しいことがあるの」


「あ、アタシに?」


 困惑している海瀬に、手賀先輩は強く頷く。


「うん。空見ちゃんはウチと同じでぼっちの陰キャだから、きっと期待出来ない。人脈がありそうなあなただから、出来ることがあるの。空見ちゃんの出番はその後だねぇ」


 妖しく笑う手賀先輩は、スマホでSNSを開き始める。

 そして何故だか楽しそうな様子で、俺たちに告げるのだった。


「電子の世界はオタクの領域。そんな場所を我が物顔で踏み荒らして、SNSでくだらないことをしている性根の腐った奴は……ウチがしっかり刈り取ってあげる」


 いつもは地味だけど優しくて、少し頼りない年上の女の子。

 そんな印象を丸ごと引っ繰り返すような湿度の高い笑みを浮かべる手賀先輩は、どこか猟奇的な雰囲気すら纏わせていた。


 ***


 それから三日間、俺たちは『ある目的』を完遂するために奔走した。

 とは言っても、その殆どを担ったのは手賀先輩と、それを手伝う海瀬で。

 俺が役に立ったことは無いに等しかった。


 だけど。


「空見君、話ってなに?」


 ひたすら耐えて、出番を待って、ようやくその瞬間が巡ってきた。


 放課後。俺は体育館裏にある駐輪場、その片隅に一人の()()()()を呼び出した。


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