第40話 クズな彼女を助けたい
「……日曜にさ、クラスのトークグループに写真が貼られたんだ。空見は入っていないから知らないだろうけど、誰かの捨てアカウントで何の前振りも無くこれがアップされた」
海瀬はスクショを何枚か見せてくれた。
クラスのグループに名無しのアカウントがこの写真をアップし、その直後にメッセージで【クラス委員長の名雲さん、空見君と熱愛発覚!?】と書かれ、悪意ある絵文字が連打されていた。
「こいつはその後にアカウントを消して逃亡したけど、うちのクラスの連中は全員この写真を見たみたいで……聞いたところによると、他のクラスのグループにも同じ写真がアップされていたらしい」
写真を改めて見るが、名雲さんはともかく俺の姿は写っていない。
うっすらと、名雲さんの隣に誰か立っているように見えるけど。
彼女の知り合いというわけじゃなさそうだ。
たまたま『通行人とすれ違った』瞬間に、写真を撮られたようにしか見えない。
「どう見ても俺じゃないだろ、これ」
「……やっぱり? 最初はアタシも別人だと思ったけど、夏菜に連絡しても返事が来ないし、お前の連絡先は誰も知らないから確かめられないし……」
「それは悪かったな。今日、名雲さんには会ったのか?」
「ううん。今日は学校を休んでいるみたいで、未だに連絡が取れてなくて。そのせいで余計にこの写真に信ぴょう性が出ちゃったワケ」
なるほど。バカみたいでいい加減な写真でも、当の本人が反論をせず、しかも不運なことに学校を休んでしまったがために、『本物』である確率が高まったのか。
辱められて傷付いたから、名雲さんは学校に来られないのだと思い込むバカは多いはずだ。
渦中に居る人間に真相を尋ねたくても、俺はクラスで浮いているから誰も興味本位で聞いてこない。
「海瀬。お前、名雲さんとは幼馴染だろう? 家の場所くらい知らないのか?」
「知っているけど、夏菜は家に人が来るのを嫌うから。せめて連絡ぐらいくれれば……あっ!」
見計らったかのようなタイミングで、海瀬のスマホが振動してメッセージが届く。
しかし最悪は連鎖する。
覗き見たその画面には、『ごめん。親の都合で何日か学校休むことになったから、担任に伝えておいて』と。この騒動を更に過熱させてしまいそうな言葉が並んでいた。
「間が悪すぎるな……それに名雲さん、まさかこの写真を見ていないのか?」
「……いや、それは無いと思う。でも見たところで、何も出来ないっしょ? グループで反論すれば逆にリアリティが出るから。こういうのってよっぽど上手く立ち回らないと、どうにもならないんだって。黙って鎮火するのを待つしかない」
噂なんてものは続報が無ければ勝手に消え去るものだけど。
少なくとも一部の生徒の間ではこれが真実になり、【名雲と空見は文化祭マジックにかかって、その後二人で盛り上がった】と認識されてしまう。
「この悪戯……いや、中傷行為をしたクズを特定して謝らせることが出来れば解決するんだけどな」
「いや、流石に厳しいでしょ。アタシも考えたけど、探偵を雇ったとしても無理だと思う。もし犯人を見つけたら、本気で……ぶん殴ってやりたいのに」
海瀬は俯き、怒りで顔を真っ赤に染めている。
泣く直前の子供みたいだ。
抑えきれない感情を爆発させないように、何とか我慢を続けている健気な姿。
そしてそれは、俺も同じだ。俺たちの楽しい思い出を見知らぬ誰かに穢され、名雲さんを不当に貶められたことに、身体が震えてしまうほど敵意と憎しみが湧いている。
「俺たちに、何か出来ることは――」
「んん? 空見ちゃん、こんなところでどうした……のぉおおほ!?」
重苦しい雰囲気をぶち壊すような、少し汚い驚愕の声。
階段下に顔を向けると、そこには手賀先輩が立っていた。
「かかか、カップルとヤンキーの溜まり場に、空見ちゃんが女の子と一緒に居るぅ!? ああ……最近の空見ちゃんは男子力とリア充ゲージがマックスになっていたから、そりゃあモテるよねぇ……陰気オタクの先輩女はもうご退場願います、ってね。あはは」
「空見。この変な女は誰? お前の姉ちゃん?」
相変わらず勝手な妄想に浸っている手賀先輩を尻目に、海瀬はちょっと引いた様子で尋ねてくる。
変な女は可哀想だろ。変な人だけどいい人だぞ。
「お姉ちゃん要素があるように見えたか? この人は手賀先輩。図書委員の先輩だ。というか手賀先輩、こんな時間にどうしてここに?」
「あ、ええっと……じ、実はたまにここで授業をサボっているの。主に一時間目の体育がキツすぎて、推しの配信を見て虚無の時間をやり過ごしているというか、ですねぇ」
「先輩、サボりをする勇気があったんですね。体育とか家庭科のグループ実習とか、嫌々言いながらやっているイメージがありましたけど」
「ふふふ。年上のお姉さんには秘密の一つや二つはあるものだよ、空見ちゃん? 君だってこうして女の子と二人で授業をサボって、薄い本みたいな展開をするつもりだったわけでしょう? 私の薄い胸も嫉妬で熱くなっていくぅ~!」
「違いますよ。こいつは海瀬。ただのクラスメイトです。ここで話しているのは理由があって……」
正直に話すか悩んだが、隠すようなことでもないだろう。
一応、海瀬に了承を得て俺は事の顛末を手賀先輩に語った。
何か気の利いた言葉や、簡単な慰めくらいあればいい。
それで少しは心が軽くなるかもしれないと、そんな浅い下心を持っていた俺と海瀬に対して、先輩は……。
「それ、ウチが解決してあげようか?」
期待をしていない人が、期待以上の言葉を返してくれたのだった。




