第39話 クズな彼女は疑われる
名雲さんとの文化祭を終えて、二日が経った。
週明けの学校に向かうと、校門を抜けた辺りで視線を感じたような気がした。
「……なんだ?」
てっきり、名雲さんがどこかに隠れたりしていて、俺を驚かそうと待ち構えていたのかと思っていたけど。
下駄箱を過ぎて、教室前まで移動してもその様子は無い。
気のせいか。そう思い込んで、教室に入った瞬間だった。
「え?」
今度は錯覚じゃない。明らかに複数の生徒が、俺に視線を向けた。
だけどすぐに顔を背けて、何事も無かったかのように日常に戻って行く。
目の前の友達との雑談を再開するとか、スマホで動画を見るとか、自習を続けるとか。
何だろう、この違和感は。
俺だけがこの場に相応しくない。明らかに「浮いて」しまっている。
「おい、空見!」
席に着くことも無く立ち尽くしていると、背後から海瀬が声を掛けてきた。
振り返ると、その顔が怒気に満ちているのが分かった。一体俺は何をしてしまったのだろう?
「ちょっとツラ貸せよ。聞きたいことがある」
拒否を許さないように、海瀬は俺の手首を引っ張って強引に歩き出した。
***
「夏菜とお前、一体どういう関係なの?」
俺が連れて来られたのは、特別教室棟の三階。屋上へ続く踊り場だった。
ここは人気が無く、普段はカップルや授業をサボりたい不良生徒が一人二人は居るものだが、朝のホームルーム直前ということもあって、今は俺と海瀬しか居ない。
「まさかお前と二人で、こんないかがわしい校内スポットに来るなんてな」
名雲さんにしているように、つい茶化してしまうと。
海瀬は大きく舌打ちをして、視線だけで人を刺し殺してしまいそうなほど強烈に睨みつけてくる。
「次の返事次第では、お前を殴る」
「……冗談だよ。俺と名雲さんの関係は、ただのクラスメイトでしかない」
本当は金で繋がった関係だけど、それを説明しても海瀬は理解出来ないだろう。
それでも彼女は俺の答えが不満だったのか、詰問を続ける。
「本当か? その……ふ、不純な関係とかじゃないだろうな?」
「何でそうなる? 俺と名雲さんの関係は、学校の中で完結しているよ。連絡先だってようやくこの前交換したくらいなのに、どう頑張れば不純な関係になれるんだ」
嘘です。清々しいくらい不純な関係です。名雲さんに責任があるけど。
とはいえ、俺が何かしようとか邪な気持ちは無い。
海瀬が危惧するような、変な関係ではないはずだ。多分。
「じゃあ聞くけど、この前の土曜日に……夏菜と出かけたりしなかったか?」
図星だ。そしてその僅かな動揺を、目の前の女子は見逃してくれなかった。
「あ、嘘だったんだ? っていうことは、やましいことをしたし、そういう関係なわけだな? 夏菜に手を出した分、今から私もお前に手を出すから」
「その二つ、絶対意味合いが違うだろ!? 分かった、分かったから! 嘘吐いたのは認めるから、暴力はよせ! 名雲さんと他校の文化祭に行ったんだよ!」
「それも嘘だろ! 夏菜を騙して制服姿で……ら、ら、ラブホに行ったんだろ!?」
「行かねえよ!? 何がどうなれば、そういう発想に至るんだよ!」
「だったら、これが嘘だって証明してみろ!」
そう言って海瀬はポケットからスマホを取り出し、ある画像を突き付ける。
そこに写っていたのは、駅前にあるラブホテル。その入り口の前を歩いている、一人の女子生徒。
その横顔に見覚えがあった。
「……名雲さん?」
間違いなく、名雲夏菜だ。
髪の感じが普段とは違うが、確か文化祭に行った日に彼女は言っていた。
いつもより気合いを入れた、と。




