第37話 クズな彼女と答え合わせ
「結構楽しかったね、文化祭」
帰りのバスに乗った俺たちは、二人掛けの座席に座って感想を語らう。
閉場前に出たこともあって、行きと違って車内は空いていた。
祭りの後という感じがあって、僅かに寂寥感を覚える。
「そうだな。ただ、【喪失ノ眼】は……」
「文化祭委員も、生徒会も把握していない出し物だったみたいだね。パンフレットに記載はあったけど、誰もそれに気づかなかった……というオチは、流石に震えたかも」
狐に化かされる、とは正にこのことだろう。
実害の無い怪談で、俺と名雲さんだけが『見た』幻。
「だけど大人になっても語れるくらい、強烈なエピソードが出来たね」
「ああ。これで百物語に参加させられても大丈夫そうだ」
「え? 君、百物語に呼んでくれる友達居るの?」
「俺にとっては幽霊よりも、そういうノンデリな言葉を発する名雲さんの方が怖いよ」
居ないけど。そもそも百物語を開催する友達とか、普通に嫌すぎるが。
小さく笑い合って、しばらく無言になる。でも、嫌な沈黙じゃない。
俺はスマホで時間を確認しようとして、胸ポケットに入っている物を思い出した。
「そうだ、名雲さん。これの答え合わせをしよう」
合鍵を賭けた、NGワードゲーム。
この封筒の中には、俺が言ってはいけない言葉が書かれた紙が入っている。
名雲さんも忘れていたのか、一瞬だけ目を丸くしたけれど。
「残念な結果だったね。開けていいよ」
その言葉がどちらにとってなのかは言わず、名雲さんは開封を促す。
言われるがまま、封筒の上部を破って中から二つ折りの紙を取り出して開く。
「……やられたな」
綺麗な文字で書かれていた台詞は。
彼女じゃないです。
「他校の男女が二人で遊びに来ていたら、一度くらいは聞かれてもおかしくないよね。二人はどういう関係ですか? 恋人同士ですか? って」
「確かに言われたな……あの銀髪女子に」
「そう。そして君は否定する時にほぼ同じ台詞を口にした。だからこのゲームは私の勝ちっていうことで。合鍵は返さないし、今日の同伴料金は【空見君通帳】にしっかり記帳させていただくからね」
勝ち誇るような笑顔で俺を見つめる名雲さんは、ちょっと可愛かったけど。
いや、やっぱり可愛さよりもムカつきが上回るな!
まんまとNGワードを言ってしまった自分にも腹が立つ。悔しい。
「ちなみに、今日の料金はいくらですか……」
「んー? どうしようかなぁ。空見君は私と過ごして、どれくらいの価値がある一日だった?」
まるで彼女みたいなことを言う。彼女は彼女でも、レンタル彼女だが。
俺が金額を決めていいのだろうか。怒らせそうで怖いな。
いや、待てよ。上手い返しを思いついてしまったぞ。
「最高の一日だったよ。そんな一日に、金額なんて付けられないだろう?」
「気障な台詞と質問から逃げた小賢しさにイラっときたので、今日は百万円にしておくね」
「選択肢ミスった! リセットしたい! そもそも、レンタル彼女だとしたらその十分の一くらいが相場じゃないのか……?」
「私はそこら辺の女子と比べて、十倍くらいは魅力的だから間違っていないよ」
自己評価が高すぎる。
確かに学年の中でも上から数えた方が早いくらいには、魅力に溢れている女子だとは思うけど。
「でも流石に空見君が可哀想だから、減額のチャンスをあげよう。金額じゃなくて、点数を付けるならこの文化祭デートは何点だった?」
今度はしくじるなよ、俺。
期待が滲んだその顔を見て、何が最良の言葉なのかはすぐに分かった。
「もちろん、百点だな」
「ダメです。そこは『夏菜と過ごした時間に点数なんて付けられないよ』って言ってくれないとね」
「ああ言えばこう言う、って言葉がこれほど相応しい瞬間、もう二度と人生で訪れないと思う」
結局今日も完全敗北した俺は、クズな彼女に百万円を巻き上げられてしまった。
実際にお札を渡しているわけじゃないけど、じわじわと預金を削り取られているという事実は中々に震えてくるな。卒業間近にこっそり転校して、有耶無耶にするか……。
俺たちはバスを降りて、電車に乗り換えて帰路に着く。
改札を抜けて見慣れた景色が飛び込んで来るのと同時に、今日の終わりを実感した。




