第33話 クズな彼女は腹を括る
「いらっしゃいませ! 【喪失ノ眼】にようこそー!」
武道場の入り口で、椅子に座った白い着物姿の女子生徒が出迎えてくれた。
このために染髪までしたのか、髪も綺麗な銀色だ。
「この企画は二人一組様でのご利用になっております! お二人はどういった関係ですかね? 血の繋がっていない兄妹ですか?」
「初手で低い可能性に賭けすぎだろ。ギャンブルとか下手だろ?」
「では、レンタル彼女とかですか?」
「普通の恋人同士っていう、一番高い可能性を無視するのは何で? そんなにモテない顔しているのか、俺は?」
他校の生徒にまで非モテ男子扱いされると、流石に悲しいな……。
「空見君。私たち血は繋がっていないけど金で繋がっているし、私はある意味君にとってレンタル彼女でも間違いないね?」
後ろから名雲さんが耳元で囁いてくる。
間違いしか無いだろ。
俺は喜んで金を払っているわけじゃなく、脅されて金を払っているんだから……。
「ではカップル二人ご案内ということで! 説明させていただきますね?」
「いや、この子は俺の彼女じゃないんだけど……面倒だしもういいや、そういうことで」
俺たちは銀髪の子に、入場に際しての説明を受ける。
「お二人はこの高校が建つ前、この土地に何があったかご存じですか?」
「俺は知らないな。名雲さんは?」
「私も。広大な土地だし、普通に考えたら田畑とかじゃない?」
しかし銀髪女子は、小さく首を横に振る。
「ここには以前、処刑場があったそうです」
その瞬間、周囲の温度が僅かに下がったような感覚に陥る。
「旧地名を飛久比と言いまして、江戸時代後期に近隣町村から、奉行によって判決を受けた罪人を処刑していたことで有名な土地です。斬首された首が刑場近くに晒されることから、飛久比という地名になったとか」
「……作り話だろ。裏付けが無いなら、鷹森高校の生徒の創作だ」
「私には真偽は分かりかねます。話の続きですが、この飛久比でとある罪人の女性が斬首されたそうで、例外なくその首は晒されたそうです。何でも彼女は金銭目的で捨て子を養女にしたものの、その子を捨てて見殺しにしたそうです。罪状を獄門と言います」
飛久比の噂は聞いたことがあったが、後半の話は初耳だ。
噂というのは、尾鰭が付いて好き勝手に魚のように回遊する。偽りの尾鰭。
だが、その尾鰭が疑いようのないほどに立派なものであれば、途端に現実味が増す。
完璧に融合した尾鰭によってまた、噂を知らぬ誰かの元に流れ着く――。
「獄門は頃合いを見て役人が首と遺体を埋葬するのが常なのですが、晒された首は腐っており、眼球すらも溶け落ちていたと言います。眼窩にぽっかり穴の開いた首。目を喪失したその女は死んでも死にきれず、新月の夜に埋葬場から這い出て、手探りで眼球を探し続けたそうです」
喪った目を、探し続けるために。
「近代になって飛久比の処刑場が廃止され、鷹森高校が建った今でも、その女は眼球を求めて度々この校舎に現れるのです。そして彼女の首が放置された場所は……この武道場と全く同じ位置だった」
銀髪女子は目を細め、俺と名雲さんを交互に見遣る。
「以上が有名な鷹森高校の怪談、【喪失ノ眼】でございます。ご清聴いただき、ありがとうございます。それではお二人には今から、この武道場で彼女の『眼』を探していただきます。よろしいですか?」
ただ怪談噺を聞かされて、帰れるかと期待したのに。
この女子のおかげで気分が悪くなってきた。
パンフレットに大きな文字で【※鳥肌注意】って書いておいてくれよ……昔の動画サイトのコメントみたいにさぁ!
「ちなみに、私たちはこの中で何をすればいいんですか?」
名雲さんは相変わらず乗り気だ。というか、怪談を聞いて余計に熱が入ったらしい。
「まず一人には椅子に座っていただき、『目隠し』と『耳塞ぎ』をしてもらいます。目を隠すことで霊から奪われないようにするのと、同時に聴覚を遮断することで恐怖心を減らすことが目的ですね」
「ふむふむ。では、もう一人は?」
「一人が『生贄』として霊を引き付けている間に、武道場内から眼球を探してもらいます。あ、もちろん本物ではないですよ? ピンポン玉で作った手作りの眼です。時間内に見つけられなかった場合、『生贄』が霊に捧げられてしまいます」
帰りたい。帰りたい。帰りたいよぉ……。
設定が妙に完成度高くてしんどい。
今日だけは冷笑系男子でいいから、鼻で笑って恐怖心を隠して立ち去りたい。
そして名雲さんのことだ。俺を『生贄』にするに決まっている!
「よし、空見君。私が眼球を探すから、君が」
「いいえ、お客様。『生贄』役は女性が務めるのです」




