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第32話 クズな彼女は怖がらせたい

 それから俺たちは色々なクラスを回って、文化祭を楽しんだ。

 非常に完成度の高い脱出ゲームや、演者ほぼ全員が棒読みの演劇。

 家庭科部が販売している絶品マドレーヌ。

 クラスに何があったのか察することが出来た、装飾が一切ない休憩所。


 豊富な出し物を楽しんでいるうちに、あっという間に午後一時になってしまう。

 閉場時間まであと二時間だ。来客はそれまでに帰らなければならない。


「名雲さん。ギリギリまで居るとバスが混むだろうし、そろそろ帰るか?」


 下駄箱の近くを歩いているタイミングで尋ねると、名雲さんはまだ惜しむような表情でパンフレットを眺めていた。


「大体回ったけど、心残りが一つだけあってね」


「何だ? 人が多すぎて入るのを諦めた犬耳メイドカフェか?」


「それは空見君の願望でしょ。そうじゃなくて、ここだよ」


 名雲さんがパンフレットで指差して見せたのは、体育館一階にある武道場で行われている出し物……【喪失ノ眼(そうしつのめ)】という、良く分からないものだった。


「何だろう、これ。宝探しとか?」


「いや、これは所謂『お化け屋敷』だね。鷹森高校の文化祭って、初日が校内公開で、二日目が一般公開になっているのは知っているよね?」


「ウチと同じ形式だからな。初日は実質、生徒たちによるリハみたいなものだろ?」


「そう。この【喪失ノ眼】はどうやらとても怖かったらしくて、初日の午後にはもう誰も近寄らなかったらしいよ。異常だと思わない? 高校生なんて怖いと聞かされたら、逆に喜んで突っ込んでいくものだし。それこそ好きな人を誘って、とかさ」


「……何か、トラブルでもあったんじゃないか?」


「いいや、違うよ。噂によると、『()()()()』が出たらしい」


 首筋に、冷たい風が当たったような錯覚を感じた。

 だけどすぐに頭を振って、名雲さんの言葉を否定する。


「流石にそれは無いだろ。噂も含めての演出だ」


「そう思う? だけどね、空見君。どうやら二日目の今日も……午前中に幽霊を見た人が居たらしいよ。その子は他校の生徒だったんだけど、霊と遭遇して失神したんだって。保健室に運ばれる最中も、ずっと悲鳴を漏らしていたそうだよ」


「あ、名雲さん。体育館に行くなら二階でバンド演奏もあるみたいだぞ」


「ふふふ……空見君、話の逸らし方が下手だね? もしかして、ホラーが大の苦手だったりするのかな?」


 上目遣いで品定めするように見つめてくる名雲さんに、思わず顔を逸らす。

 この女に握られたら、一番ダメな弱点だ。何とか誤魔化すしかない。


「はぁ? 別に俺は平気だけど? そういう名雲さんこそ、実はホラー苦手だったりして」


「うん、そうだよ。私はめちゃくちゃホラー耐性が無い」


「え? そ、そうなのか。それなら別に行かなくてもいいよな」


「だけどね、空見君」


 名雲さんは俺の手をしっかりと握ってきた。

 女子と手を繋ぐ。

 まるでデートの一コマのような瞬間だけど、これに限っては絶対にそんな甘いものじゃない。


「私は我慢してでも、君が怯えるところを見たくて仕方ないのさ! さあさあ、一緒にこの地獄みたいなお化け屋敷に殴り込みに行こう!」


「最悪だ! 最悪だ! こいつの性格最悪すぎる! 本当にクズ! 人としてダメ!」


「近頃忘れているようだけど、私は元々君の貯金狙いで近づくくらいにはクズだよ?」


「そうだった! 今更こんな罵倒しても意味ねぇや! チクショウ!」


 喚き続ける俺の抵抗も虚しく、あっさりと武道場に連れて行かれてしまった。

 途中から周囲の視線が痛すぎて、諦めて連行されたのが主な敗因だが。


「予想通り、怖すぎて不人気みたいだね。体育館の二階へ続く階段にはバンド演奏目当ての人が大勢向かっているのに、武道場へ続く廊下を歩く人は誰一人居ない」


「……俺たちを除いて、な」


 どうやら体育館の一階部分には大小それぞれの武道場が二つと、トレーニングルーム。

 その先にはトイレとシャワールームがあるみたいだ。

 文化祭の最中だからか、武道場以外は利用禁止の張り紙がしてある。


「お化け屋敷は小さい武道場らしいよ。覚悟は出来た?」


「出来てなくても連れて行くんだろぉ……そうだ! いっそお金を払うから、行くのを止めてバンド演奏を見に行こう! そして爽快な気分で帰ろう! な!」


「二億円積まれても断るよ。私はお金じゃ買えないプライスレスな絶望顔が見たいんだよ、空見君」

「嘘だろ? 二億円でもダメなの? 目的見失ってない?」


 流石に二億は払わないし、それは見透かされているんだろうけど。

 でも、五万円くらいなら払ってもいい。

 それくらい名雲さんの前でビビリ散らかしている自分を見せたくないんだ……。


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