第29話 クズな彼女と待ち合わせ
土曜日、午前十時。
昨日の放課後に集合場所と時間を名雲さんに伝えられ、俺は遅刻せずに到着することが出来た。
指定された場所は最寄り駅からニ十分ほどの、駅改札前。
どこの高校の文化祭に行くかも聞かされていなかったが、この近くなのだろうか。
「やあ、空見君。お待たせ」
一本後の電車で名雲さんが到着した。
こういうシチュエーションの場合、休日コーデを褒め合うべきなのだろうが。
「……制服姿だと、新鮮味が無いな」
他校の文化祭に行く時は、制服で行くのが基本らしい。
俺は全く知らないルールだったが、名雲さん曰く。
「知らない学校に、慣れた姿で行くからこその非日常だよ。空見君」
だそうで、昨日と今日で同じことを言われてしまう。
「それとも、私の可愛い私服姿が見たかった?」
「いや、別に。お気に入りの私服は彼氏と出かける日まで取っておくといい」
「やれやれ。私は休日でもこんなに可愛いのに、君は平日と同じで可愛くないね。でも、私のためにちょっとだけ頑張ってくれたのはポイント高いよ? ふふっ」
名雲さんは視線を俺の顔から頭にずらす。
「休日はこっちの方がいいって言ったのは、名雲さんだろ?」
「そんな風に言ったかな? ちなみに私も、今日は少しだけ準備に気合を入れてきたよ。どこが違うか分かる?」
「……髪の毛が、なんかふんわりしているとか?」
「お、大正解。毛先を少しヘアアイロンで巻いて、スプレーでボリュームも出してみたんだよね。平日だったら絶対にやらないスタイルだけど」
「今日は文化祭だから、気合を入れたっていうことか?」
「それもあるけど、空見君に褒めて欲しくて頑張っちゃった」
そう言って目を細める名雲さんに、どんな言葉を返すか悩んでしまう。
このお出かけを『デート』だと誤認すると、何だか無性に照れ臭いからだ。
それでも、次の言葉を待っている名雲さんを無視出来ない。だから。
「……時間をかけた分、可愛くなったと思うぞ」
曖昧な言い回しに、名雲さんは小さく溜息を吐いた。
「もっとストレートでいいのに。君は高級レストランで食事をして、『高いんだからマズいわけないよな』って言うタイプ? 本当にそれでいいの?」
もっと良い感想を強要されてしまった。流石にこれは、俺が情けなかっただろう。
「ごめん。普通に可愛いです」
「ふ・つ・う?」
「……世界一可愛いです」
最上級の褒め言葉を絞り出すと、ようやく名雲さんは嬉しそうに笑ってくれた。
だから、こういうやり取りは彼氏を作ってからやれよ。
「女の子はどんな相手でも、褒めてくれればそれだけでご機嫌になるんだからね。今後のために覚えておくといいよ」
「ご教授いただきありがとうございます。彼女が出来たら活用させてもらうよ」
「空見君が女心を知りたいなら、もっと教えてあげるよ。授業料は一コマ一万円でどう? 私のプライドに賭けて、君を最高の色男にしてあげようじゃないか」
「ちなみに、その講座は全部で何回だ?」
「うーん。君は乙女心を知らなさすぎるから、百回くらいは必要かな? 週に一度のレッスンで完璧なモテ男を目指そう!」
「二年以上かかる上に、百万円も取られるのか。高い授業料だな……」
そもそも二年後は受験シーズン真っただ中だ。
他の生徒が英語や数学の勉強をしている最中に、アホみたいな勉強をしていたら浪人確定だろ。
「高校三年になったら、私たちはどうなっているかな。想像もつかないね」
「そうか? 何も変わらないと思うぞ。今だってあっという間に一年生の秋が始まっているし。三年なんてあっという間だ」
そんな他愛のない雑談をしながら、俺たちは駅の東出口へと向かう。
半歩先を名雲さんが行き、彼女に先導されるような形だが。




