第28話 クズな彼女は約束をする
「君という男の子は、随分と卑屈者だよね。何のアニメに影響されたのやら」
「アニメに限るな。俺への偏見が酷すぎるだろ。元々卑屈者なのは否定しないが、それが悪化したのはお前の影響だぞ?」
「つまり私の色に染まっちゃったわけだ。これから服を買う時は、暖色系は避けるといいよ」
「物理的に色が変わったわけじゃないぞ? あと、名雲さんのパーソナルカラーってブルベなのかよ」
「おー! お洒落に疎い空見君には絶対分からないボケだと思っていたのに!」
今日一番の興奮を見せやがって……。
この前ヘアサロンに行った時、小金さんと名雲さんが喋っているのを盗み聞きしておいて正解だった。
途中まで果物の話をしているかと思って(ラズベリーとか)、家に帰ってすぐに検索したからな。
「小金さんと私の会話を盗み聞きしておいて、良かったでしょ?」
「……そこまで見透かしていたなら、中途半端に持ち上げないでくれ。とにかく、文化祭は遠慮しておくよ。文化祭のリベンジがしたいなら、友達とでも……」
「君に拒否権は無いと思うけどなー?」
名雲さんは胸ポケットから鍵を取り出して、俺に見せつけてくる。
そうだった……くじ引きで負けた結果、『貯金の話は今後させないし、合鍵も返してもらう』という約束を果たせないままだった。
「……文化祭に付き合ったら、鍵を返してくれるのか?」
「そんなに嫌な顔をされると、私も傷付いちゃうんだけど? 行きたくないなら別にいいよ。この鍵は未来永劫、名雲家の一員になるだけだから。今日から私がママになるね」
「鍵の親権を奪わないでくれ。いや、鍵に親権も人権も無いだろ!」
「今日はやけに元気だね、空見君。そろそろ私は帰るから、図書委員の仕事頑張ってね」
話を打ち切って踵を返した名雲さんを……引き留めるしかなかった。
「分かった! 一緒に文化祭に行くから、鍵を返してくれ!」
「ふふっ、そう言ってくれると思った。でも文化祭に付き合うだけだと勿体ないから、もう一回くじ引きみたいにゲームをしよう。それに勝ったら、合鍵を返却するから」
またゲームか……と、思ったが。前回のくじ引きは俺がヘマしただけで、イカサマを見破ったし実質的に勝っているも同然だ。
つまり次のゲームだって、よっぽど俺に不利なものじゃなければ勝ち目はある。
ここでゴネるよりも、素直にそれを聞き入れて対策を考えた方がいい。
「分かった。だけどイカサマは禁止だぞ」
「もちろん。じゃあ、ゲームの内容は当日伝えるからね」
「え? い、今教えてくれないのか?」
「うん。当日までのお楽しみっていうことで。不満かな?」
人差し指を唇に当てて「しーっ」とジェスチャーする名雲さんは、実にあざとかった。
「うん、決まりだね。待ち合わせ場所と時間は前日に教えるから、逃げちゃダメだよ?」
名雲さんは楽しそうな笑顔を向けて、「ばいばい」と手を振って階段へと向かって行った。
そういえば、相変わらず連絡先を知らないままだな。
今までは学校と、俺の家で(強引に)会うだけだったから、不都合は無かったけど。
「休日に名雲さんと会うのって、これが初めてになるのか……?」
それに気付いた俺は、そのシチュエーションに相応しい単語を頭に思い浮かべてしまい、慌てて振り払う。駄菓子屋の時はつい、口にしてしまったけど。
俺たちはエモい青春を分け合うような関係じゃない。貯金を奪い合っているだけ。
だからこれも、その延長でしかない。
冷笑系の卑屈者に、浮かれ気分の休日なんて無いのだから。




