第27話 クズな彼女は名前を呼ぶ
「失礼します。手賀先輩、居ますか?」
放課後。図書委員の仕事をするために図書室へ向かった。
室内に入ると、手賀先輩の姿が無い。
カウンター奥にある司書さんの部屋で作業をしているのだろうか。
「はいはーい。今日も来たね、空見ちゃん! お姉さんと一緒に濃密な三時間を……を!?」
部屋から出てきた手賀先輩は、野太い声を出して俺を凝視する。
頭の上からつま先まで、舐めるように観察して……そして、その場に崩れ落ちた。
「ウチの可愛い空見ちゃんが……光堕ちしたぁ……」
「していません。光堕ちって何ですか? 闇堕ちの逆ってことですか?」
「そうだよ!! ウチらみたいな陰キャが、正義やお洒落に目覚めて色気づく現象のことだよ! 空見ちゃんは後者! 私たちの身体に流れていた同じ血が、お洒落という危険薬物のせいでデトックスされちゃったじゃん!」
「いや、同じ血は流れていませんけど」
「ノー! アイアム、ユアシスター!!」
「勝手にお姉ちゃん名乗らないでください。他人ですので」
俺に否定された手賀先輩はそのまま四つん這いになって嗚咽を漏らし始める。
え? 何か知らないけど、この人本気で泣いていない……?
「あうう……ぐっ、うえぇ……灰色の高校生活二年目にして、やっと私の同志を見つけたと思ったのにぃ……ウチを置いていかないでよ、空見ちゃぁん……私を殺さないでぇ」
「殺しませんよ? そ、そんなに変ですか。俺の髪型」
「いや、世間一般的にはむしろ良好というか……一般女子をメロらせるには充分すぎるくらいのビジュだけどもね!? 推しが居なければ危なかった……この子が居なかったら、空見ちゃんに殺されていたところだよ」
手賀先輩は胸ポケットから小さなぬいぐるみを取り出して、鼻に当てて呼吸する。
酸素スプレーかな? そして常に潜ませているのかな、それ。
「あーあ……今日はもう、やる気無くなっちゃった。仕事放棄して帰っていい? 推しの配信をスマホとPCで二窓して見ないと、この心は癒されないんだけど」
「そこまでですか? 今日の仕事が少ないなら別に帰ってもいいですけど」
「うぃ。じゃあ今日は帰るから……あ、その前に一枚貰うね」
海瀬と同じ様に、手賀先輩も俺の写真を勝手に撮って帰って行った。
あれだけ荒れていると、注意する気も起きない。悪用はしないで欲しいけど。
***
図書委員の仕事を終えて下駄箱に向かうと、見慣れた女子生徒が居た。
名雲さんだ。少し離れた位置に居る俺には、まだ気づいてないらしい。
「なぐ」
「ねえねえ、空見君。ちょっといい?」
声を掛けようとすると、背後から誰かに声を掛けられた。
数少ない知り合いかと思って振り返るが、全く見たことの無い女子生徒だった。
いや、確か同じクラスなのは覚えている。
ロングヘアに金色のインナーカラー(と、呼ぶんだっけ?)を入れているギャルだが、同じくギャルの海瀬とは雰囲気が違う。海瀬よりもメイクが濃いからだろうか。
確実に自分が他の女子よりも『可愛い』と決め込んで、他の女子と自分は違うと思っていそうな……そんな印象を抱く女子だ。
「何か今日の空見君、ちょっとエグくない? イメチェンするきっかけがあった感じ?」
「エグ……? え? 見た目が悪いってこと?」
「いや、謎解釈すぎて草だわ。むしろそういう浮いた感じが私とは逆にアリだけど。入学当初からワンチャン磨けば光るんじゃね? って思っていたけどさ、髪型変わるだけでもバカヤバなんですけど。ツボるわ」
何これ。現代文のテストか? 俺は褒められているのか?
でも海瀬や手賀先輩と違って、困惑されているわけではなさそうだ。
「つか、空見君って彼女居る?」
「……いや、居ないけど」
ノンデリかよ、こいつ。出会ってすぐに聞くことじゃないだろ。
すると、女子生徒はスマホを取り出してQRコードを見せつけてくる。
催眠アプリとかじゃないだろうな。
「これ、私のアカだから。読み取って友達追加してくれる?」
急に強めの思想を暴露されたのかと思ったが、アカウントのことか。
「な、なんで? 俺たち、何か連絡しあう理由とかあるか?」
「は? フツーに考えて、空見君と」
「冬斗君。図書委員の先輩が君を呼んでいたよ」
ここ一か月で、すっかり聞き慣れたはずの声。
だけどその呼び方は、初めて聞くものだった。




