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第26話 クズな彼女が与えた変化

 

 ***


「……すごぉ」


 一時間弱のカットを終えると、鏡の中から三十点の男は消えていた。

 八十点かどうかは分からないが、見栄えは自分でも驚くほどに良い。別人みたいだ。


「髪型だけで、こんなに印象が変わるのか」


「もちろん! 男子は特に、ね。例えばどんなイケメンでも角刈りだったら、どう足掻いてもダサいでしょう? だから髪型って大事なんだよ」


 小金さんはクロスを外しながら、満足した様子で笑う。

 確かにこれは高いお金を払う価値のある技術だ。


「空見君のスマホにスタイリングしている時の動画を送ってあげるから、セットする時に参考にしてみてね。それじゃあ、仕上がりの写真を撮って終わり!」


 椅子に座ったまま、何枚も写真を撮られるのは恥ずかしかったが、終わってみれば清々しい気持ちだった。これなら名雲さんにお金を払うのも惜しくない。


 ちなみに、その名雲さんはというと……。


「名雲さん? カットが終わってからずっと微妙な顔をしているけど、どうかしたか?」


 やっぱり三十点のままだったのだろうか。少なくとも、好意的な反応は見せてくれなかったし。


「あ、いや……とっても格好いいよ。だけど」


 言葉とは裏腹に、その目つきは険しい。

 不思議に思いながらも俺はセットするためのヘアワックスと、別料金の眉カット代を払って会計を終える。


「気に入ったら空見君も、これから継続的にカットモデルをやらない?」


「いいんですか! ぜひお願いしたいです!」


「メンズのモデルさんは居なかったから、私も大助かりだよ~。高校卒業したらカラーとパーマもやろうね! 絶対似合うから!」


 まさかの行きつけの、しかも無料でカットしてくれるお店が出来た。

 これは名雲さんに感謝しないといけないな。


「名雲さん、今日はありがとう。そろそろ帰ろうぜ」


「あ、うん……」


 結局、帰りの道中も名雲さんはテンションが低いままだった。

 大して話も盛り上がらないまま、途中で別れてしまったな。あ、そうだ。


「お金、払いそびれたな」


 まあ、明日学校で払えばいいか。

 家に帰ったらこのセットを再現出来るように、貰った動画を見て勉強しないとな。


 ***


「……うん。やっぱり何も変わらないな」


 翌日。頑張って髪型を再現して登校してみたが、普段と何も変わらない朝だった。

 女子から飛んで来る目線が増えるとか、名雲さんの言っていた好意的な女子とやらが声を掛けてきたとか、そういうのは全く無くて。


 それこそ、せめて名雲さんがちゃんと褒めてくれたらそれで救われたんだけどな。


「おい、そこはお前の席じゃないだろ。ホームルーム前に戻れよ」


 威圧的な声を掛けられて顔を上げると、目の前に海瀬が不機嫌そうな顔で立っていた。


「本人が居ないからって勝手に席に座るとか、普通に無いわ。親しい友達ならまだ分かるけど、お前と空見が話しているところとか見てないし」


「あの……海瀬?」


「友達が居ないド陰キャだからって、見下すとか最低だから。アタシはアイツと親しいから悪口を言ってもいいけど、お前は違うだろ。来る前にどけよ」


 海瀬が不良のように俺を睨みつけ、威圧する。

 だが、その怒気を含んだ威圧も徐々に困惑の色へと変わっていった。


「……空見? もしくは、空見の兄弟?」


「本人だよ。見れば分かるだろ。頭だけじゃなくて目まで悪くなったか?」


「うわ……その口の悪さ、絶対空見じゃん。え? は? うわぁ……!? な、なんで? 親とか人質に取られた感じ? どしたん? 話聞こうか?」


「俺は人質が居なければイメチェンをしないと思われているのか? 普通に髪を切ってきただけだよ。遅れてきた夏休みデビューみたいなもんだ」


 海瀬はようやく、俺を空見冬斗本人だと認識してくれたらしい。

 だけど初めて人と触れ合う猫のように、びくびくしながら席に座る。


「……いや、有り得ないって。ていうか、親しみやすさとか陰のオーラが消えた感じ。普通にヤバいから。ていうか、まだ脳がバグったままなんだけど」


 そう言いながら、海瀬はスマホを構えて俺の写真を撮る。


「うわ!? 急に写真を撮るな! ネットで晒す気か!?」


「え? ご、ごめん。何かレアな光景過ぎてつい……」


「街中で珍しい動物を見つけた時の反応かよ。後で消しておいてくれよ」


 しかし海瀬は「やば」「有り得ん」と繰り返すだけで上の空だった。

 何て言うか、見世物になったみたいで気分悪いな……。

 ちょっとだけ褒めてもらえるかと思ったのに、ガッカリにも程がある。


 結局、放課後になるまで海瀬は全然喋らなかった。

 ただ横目で何度もチラチラと顔を確認されて、俺はいつも以上に居心地の悪さを覚えるのだった。



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