第23話 クズな彼女はオススメする
「空見君は、もう少しお洒落に気を遣うべきだと思う」
下校途中。後ろから合流してきた名雲さんに、ダメ出しをされた。
無理やり知り合いになってからそろそろ一か月になる。
以前よりは言いたいことも気軽に言える関係になっただろう……だが。
「そもそも俺は、それなりにお洒落に気を遣っているが?」
「え? そのいい加減に伸ばして雑に切っている髪や、申し訳程度に長さを整えるだけの眉と、秋になってお肌がガサガサなのに乳液で保湿もしていない君が?」
「……人は見た目じゃなくて、心の方が大事だからぁ」
「自分磨きを怠っていて、それを正当化する心は別に綺麗じゃないと思うけど?」
今日の名雲さん、火力強すぎて辛いんだけど。
もうすぐ十月になるというのに、心を焼き尽くす太陽のような女だ。ちょっと泣きそう。
「というかさ、空見君」
名雲さんは俺の前に立ちふさがって、両頬に手を添えてきた。
「この際だからハッキリ言うけど、君という男はそれなりの素材なんだよ? 磨けば光る素質はあるのに、表面に付着した苔が厚すぎて誰も気付けていないのさ。美波ちゃんや図書委員の先輩も、君の真価に気付けていない。私だけだよ、君を理解しているのは」
「急に重めの女子にならないでくれ」
「君には私だけいればいいんだよ。女子の連絡先、全部消してくれた?」
「女子の連絡先を知らないし、何なら名雲さんとも連絡先を交換しないんですが?」
重い女を演じて遊んでいた名雲さんは、急に神妙な顔で目を逸らす。
憐れまないで欲しいし、せめて『じゃあ私が君と連絡先交換してあげる!』くらいは言うべきだろ。
別にいらないけど。
「というわけで空見君。一万円ちょうだい?」
「何のお金だ? 罵倒代か? 男子の特殊性癖に賭けて当たり屋をするんじゃない」
「そうだったね。君はギャルが好きなだけの人畜無害な男子だし」
「それも誤解だって! あれは手賀先輩が俺を誤解して、その誤解が連鎖して空見さんに届いただけだ!」
「誤解の二連鎖ということだね。私がクラス中に言いふらせば、夢の四十連鎖が叶うよ」
「俺に興味ある奴が、あと三十八人も居るだろうか」
「……戦争映画を観終わった時と同じくらい、切なくなっちゃった。まあその話はさておき、私が一万円を要求するのは君のためだよ?」
昨今は残暑が厳しいからな。名雲さんも暑さでおかしくなったのだろう。
無視して家へ帰ろうとすると、彼女は隣を歩きながら続ける。
「悪い話じゃないって。私に一万円をくれたら、君をイケメンにしてあげる」
「余計なお世話だ。別に顔が良くなったところで、人生が変わるわけじゃない」
「あはは、ご冗談を。高校生男子というのは、女子にモテるためなら何でも出来る生き物のはずだよ? 一万円でその夢の生活を手に入れられる可能性があるなら、嘘だとしても飛びつくべきじゃない?」
「お前が言うと嘘の可能性が高すぎるからな。さっき褒めたのもそういうことだろ」
「ううん? それは本音だよ? 私は嫌いな相手の部屋に上がり込まないし、背中からハグされて我慢するような人間じゃない。空見君だから、許してあげたんだけど?」
先日の出来事がフラッシュバックして、思わず怯んでしまう。
あれからちょっと気まずくて、なるべく避けるように登下校していたのに……本当に無遠慮な女子だ。
「それにね、空見君。これはお金とか抜きで君に教えてあげるけど……君のことを好意的に見ている女子は、本当に存在するよ?」
「……え? う、嘘だろ?」
「学年で最も交友関係が広い私が手に入れた、確かな情報だから間違いないよ。そんな彼女のために、少しは見栄を張ってあげる気は無い? 雰囲気が変わった君から勇気を貰って、彼女も……君に声をかけるかもよ?」
まるで恋愛漫画みたいな、密かな片思いを向けられているなんて。
いや、待て。これは罠に決まっている。
この提案に食いついたが最後。
いつもみたいに名雲さんに揶揄われて、いい加減な理由でお金を取られるだけだ。絶対に!
だけど、この罠にかかってもいい理由がある。
一万円という高額な要求に対して、名雲さんが何をしてくるのか知っておけば、今後の対策にもなる。
つまり授業料みたいなもので、この一万円を払えば今後名雲さんに陥れられる可能性も減るわけだ。
別にイメチェンしたいわけじゃないし、その女の子のためにお洒落をしようとか、そういう話じゃない。絶対に!




