第22話 幕間 名雲夏菜の胸は高鳴る
空見君のアパートから出て、少し歩いた先で立ち止まる。
深く息を吸い込んで、吐き出す。
胸元に手を当てると、心臓が不安になるくらい早い鼓動を刻んでいた。
「……あのイカサマは、迂闊だったかな」
バレるとは思っていなかったし、そもそもバレたところで軽い口論程度で終わると思っていた。
やった、やってないを繰り返して、ムキになる空見君を私がからかって終わり。
そういう感じの流れを予想していたのに、彼に裏切られた。
「まさか、いきなりハグしてくるとは思わないじゃん……っ!」
私と密着しないようにしていたのは分かる。
それでも彼がブレザーのポケットに手を入れた時は、完全なゼロ距離だったわけで。
耳元での囁き。そして、私よりも体温の高い身体。
背中にはまだ、その熱が残っているような錯覚を覚えてしまう。
「彼氏でもない男の子相手なら、何されても平気だと思っていたのに」
私って、案外ちょろい?
そして、もしかして他の女子よりも……いや、それは絶対に違うから!
「しっかりしろ、夏菜。私にはそういう色恋に没頭する時間は無いんだから」
私は私の未来のために、すべきことがたくさんある。
空見君と接する時間は、未来に続く道みたいなもの。
寄り道じゃない。この時間と彼から巻き上げたお金は、絶対に無駄にならない。
「だから……彼と一緒に居ても、大丈夫。無駄じゃないし、恋じゃないから」
頬を軽く叩いて気合を入れてから、早歩きで大通りに向かう。
その途中でスマホを取り出そうと、ポケットに手を入れる。
「あ、そういえばこれ……どうしようかな」
空見君が私に押し付けた強化素材こと、【二等 寝落ち通話体験チケット】。
それだけじゃなくて、もう一枚。こっちはあまりにも恥ずかしいことを書いてしまったから、彼が中を確認する前に私に渡してくれて良かった。
「寝落ち通話は興味無いけど、今度空見君に提案してみようかな?」
恥ずかしがるかな。鬱陶しい顔をされるかな。
あるいは、このチケットも買い取ってくれるかもしれない。
「どう転んでも、空見君は私を楽しませてくれそうだね」
二枚のチケットをスマホケースの裏側に隠し入れる。
何かあった時は、これを使って彼と楽しい交渉をするとしよう。
さて、今日の夜はダウンロードした映画を朝まで観ちゃうぞー!




