第21話 クズな彼女にシてしまったこと
「……んっ」
俺は名雲さんの腰辺りに手を伸ばして、入れる。
指先の行く末が予想外だったのか、名雲さんは慌てて俺の手を掴むけど。もう遅い。
「や、やめて! そこを乱暴にまさぐられると、流石に私だって」
「今更止めると思うか? いいから覚悟を決めろ!」
抵抗を始めた名雲さんだったが、力で俺に敵うわけが無い。
そして俺は指を入れた先……彼女のブレザーのポケットから、丸められた一枚の紙を引き抜いた。
「……やっぱり。くじを仕込む時の動きが、怪しいと思ったんだ」
くしゃくしゃになった紙を広げると、そこには【特等】の文字があった。
購入数を決める際、名雲さんが戻したはずのくじ。イカサマの証拠だ。
「くじを戻す時、名雲さんはわざわざ箱の奥底まで手を突っ込んでいたからな。戻すだけにしては大仰な動きだ。四十枚目のくじを引いた時に、箱を潰したのは特等が入っていないことを俺に気付かれないためだ。違うか?」
仮に俺が潰した箱を開けようとしたら、名雲さんはポケットに忍ばせた特等をまた指の間にでも仕込み、床かゴミ箱に放ればいいだけ。
そうすれば、確かにそこに『あった』という事実を演出出来る。
「……すごいね、空見君は。一体いつから気付いていたの?」
「最初から疑ってはいたけど、確信したのは四十枚目を引いた後だ。俺の運で特等を引けないのは異常事態だからな」
あと、名雲さんが知っているかは分からないけど、これと似たようなことをしたギャンブル漫画を読んだことがあったから。
原作再現とは言わないけど、結果的に同じようなオチになったのは偶然だろう。
「大したイカサマだ。不正があった以上、この勝負は俺の勝ちでいいよな? 四千円は払わないし、特等は頂く。それで――」
「ううん? 三千円は払ってもらうよ?」
「……は? この期に及んで、何を」
「空見君。私にハグをしたよね?」
満面の笑みで問いかける名雲さんの意図を理解するのに、時間はかからなかった。
くじの途中で引いた、【バックハグ体験チケット】。
あれは確か、三十連目の開封途中で手に入れた物だけど……!
「は、ハグじゃない! 後ろからポケットに手を突っ込んだだけだ!」
「へぇ? じゃあ痴漢行為だね。同級生の背中に密着して、頭皮の匂いを嗅ぎながらポケットに手を突っ込んでまさぐるドヘンタイ君だ。少なくとも私は、あの行為に恐怖を覚えたし傍から見たら完全に犯罪になっちゃうよね?」
でも、と。
俺の反論を許さず、名雲さんは話を続けながらチケットを見せびらかす。
「このチケットを使えば『合法的な』ハグになって、全て許されるけど? ねえ、空見君は私に痴漢をしたのかな? それとも、このチケットを使ったのかな?」
やられた……。これに関しては、俺に一切逆転の目はない。
ブレザーのポケットを漁るには強硬手段以外無かっただろう。
仮に「ブレザー貸して?」と言っても、名雲さんはイカサマの証拠を隠すために絶対に頷かなかったはず。
「だけどまあ、イカサマをしたことは事実だからね。その特等は君にあげよう」
「え……?」
思わぬ展開に、気の抜けた声を漏らしてしまった。
「でも特等の内容は変更させてもらうからね。私と一日、楽しく過ごせるチケットっていうことで。場所も時間も自由で、使用期限は無し。使い道は空見君が好きなように考えるといい」
そして名雲さんは今度こそ、ダウンロードが完了したタブレットをリュックに詰め込み、立ち上がって玄関へと向かって行く。
「今日も楽しかったよ。またね、空見君」
名残惜しさを感じさせない爽やかな挨拶をして、名雲さんは今日も帰って行った。
イカサマを暴いて、特等も手に入れたというのに。
どうしてなんだろうな。
「名雲さんには勝てないな……っていう気持ちになるのは」
自嘲するように笑ってから、身体に残った僅かな熱を感じる。
極力、触れないようにブレザーのポケットに手を入れたつもりだったけど。
「……まあ、名雲さんだって俺に無茶な提案をするし、そもそも最初から家に強引に上がり込んできたわけだし。イカサマをした方が悪い。だからイーブン……だよな」
手元に残った特等のくじを見ながら、色々な思考を巡らせる。でも。
悪いことをしたという罪悪感と、女子の身体に触れてしまったという恥ずかしさだけが残るのだった。




