第20話 クズな彼女に負けたくない
「あれれ? 特等どころか他の当たりも引けてないね? 空見君は随分な強運をお持ちのようだ」
「囀るな……ッ! こんなのは勝利に続く階段にもなりやしない!」
「これは失礼。それでは残り三十枚の中に、特等があることをお祈りしよう」
十一枚。十二枚。白紙だけが積み上がる。
そして十五枚目。遂に真っ白な世界に黒で刻まれた印が現れた。
「ぐっ……【二等 寝落ち通話体験チケット】だと……!? ハズレじゃねえか!」
「ハズレじゃないよ! 私が君のために寝落ち通話に付き合ってあげるんだよ? 想像力豊かな男子なら、これ一本でラブコメが書けるくらい興奮する当たりだよ?」
「じゃあこれ強化素材にするから食べていいよ、名雲さん」
「私は山羊じゃないよ、空見君。食べないよ? まあ……いらないなら預かるけど」
渋々受け取った名雲さんを尻目に、俺は開封を続ける。
二十枚。二十五枚。二十六枚目に、再び希望が灯った、が……。
「チッ……【一等 バッグハグ体験チケット】か。名雲さん、食べてくれ」
「もう説明もさせてくれないの……? 普通に悲しいんだけど」
三十枚。三十三枚。三十六枚目のくじにも文字が見えたが、【特等】ではなかったので読むこともなく名雲さんにあげた。
残り四枚。嘘だろ? こんな不運があってたまるかよ……!
「あはは。やっぱり君は、人生の運を使い果たしたみたいだね」
「……幸運ってやつは、どうやら大したエンターテイナーみたいだな。俺と名雲さんの期待と興奮を存分に煽って、弄んで……一番気持ちがいい瞬間に出て来られるように、舞台袖で待機しているらしい」
三十七。三十八。三十九。白。白。白。
そして遂に、俺は最後の一枚を箱の中から抜き取った。
「引き直しはしなくてもいいのかな? 空見君?」
「当たり前だ。俺の手の中には、もう特等が入っているからな」
「じゃあ、この箱は出番終了ということで」
名雲さんは箱を圧し潰し、ゴミ箱に放り投げる。
大丈夫だ。あそこに幸運は居座っちゃいない。
脱出しているはず……俺が、脱出させたんだ。
このくじを開けば、俺たちはようやく出会えるんだ――。
「頼む、きてくれ……っ!」
くじを開けて、真ん中に記されている文字を読む。
読む。理解する。このくじの結果を、声に出して読めばいい。
だけど俺は、『読む』ことが出来なかった。
「……は、ずれ……っ」
白。無垢な白。何色にも染まらぬ、白。
俺は勝率八割のギャンブルに負け、手元には敗北感だけが残った。
「はい、お疲れ様! いやあ、楽しませてもらったよ。空見君って意外とギャンブルとかに熱を入れちゃうタイプなのかもね? 映画のダウンロードも終わったし、私はそろそろ帰らせてもらう……え?」
帰り支度を始めた名雲さんの背後に回って、俺は彼女の身体の前に手を入れる。
「そ、空見君? 急にどうしたの……?」
「いいから。そのまま動かないでくれ」
「……あ。だ、ダメ。今日……体育あったから。デオドランドシートは使ったけど、せ、背中とかはちゃんと拭けてないから……だから、待って」
後ろからは顔が見えないが、名雲さんの声は弱弱しく、言い訳がましかった。
「いいから。すぐに終わる」




