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第19話 クズな彼女はゲームがしたい

 

「確かに魅力的だな。朝から晩まで日雇いバイトをさせてもいいなんて。フルマラソンに挑戦させてもいいな!」


「あ、あの……そういう本気の労働系は勘弁してくれないかな? 部屋の掃除とか、勉強の手伝いとか、ちょっとくらいは……だし」


 何かゴニョゴニョ言っているが聞き取れない。

 ちょっとくらいは人の心を持てということだろうか。一理ある。


「ちなみに、それ以外の賞は?」


「いっぱいあるよ。名雲夏菜ちゃんオンリー排出ボックスガチャだからね! 同じものが出たら強化素材にしてもいいよ」


「何が強化されるんだ? そして誰と戦う気だ?」


「私たちの日常を脅かす侵略者とか?」


「急に日常をセカイ系にしないでくれ。このガチャ、一回いくらだ?」


「十連のみで千円! でも現金を渡されても困るから、【空見君通帳】に支出を記載しておくよ。いずれ引き出すから覚悟しておいてね」


 可愛くウインクする名雲さんだが、その目の奥には欲望が渦巻いているせいで全く可愛くないな。


「さて、アンインストールしてストアで星一個の評価を付けるか」


「はぁ~~~? 空見君、それは本気かい? 私のような美少女が君からお金を貰って遊んであげるというのに! こんな体験、一生出来ないよ?」


「大人になって夜の街に行けば、お金を払って女の子と遊べるんだよなぁ。もういいから、タブレットに映画をダウンロードしてさっさと帰れ」


「やれやれ。この期に及んで、君はまだ自分の立場を理解していないんだね?」


 追い出そうとする俺に、名雲さんは今まで見たことの無いような悪意に満ちた笑顔を俺に向けてくる。何だ、この威圧感は……?


「私は君の弱みを握っているんだよ? ほんの少しの気まぐれで、私が君の貯金額をクラスメイトにバラしたらどうなるかな? 複製した合鍵だってある。君は私の機嫌を損ねたら、この生活を失うって分からないかな?」


 そうだ。最近は友達のように遊んでいたせいで、忘れかけていた。

 クズな彼女の最終目標は金を奪うこと。

 俺と過ごす時間は、その過程の一つに過ぎない。


「……だったら、名雲さんも覚悟を決めろよ? 一日自由にする券を手に入れたら、貯金額の話をさせないように契約書を交わすし、合鍵も返してもらう。それから余った時間で想像もつかないようなことをさせるからな」


「いいとも。だけどくじを全部買って特等を当てるのはシラけるから、ルールを決めよう」


 名雲さんは特等のくじをもう一度折って、箱の中に戻す。

 ティッシュ箱を左右に揺らすと、カサカサと小気味よい音が鳴る。


「この中にはくじを五十枚入れてある。細かい当たりはあるけど、特等は一枚だけ。空見君は最大で四十連まで引ける。ただし購入数は最初に決めて、引いている途中に変更はダメ。十連で引く気があるなら、君の出費は千円だけで――」


「購入数は四十連だ。確実に名雲さんを俺の物にしてやる」


「……っ!? そ、そ、それってあ、あああ、あの! お嫁さん的な!?」


 顔を真っ赤にして慌てる名雲さんに対して、言葉選びが悪かったことを自覚する。


「ごめん。つまり特等を手に入れてやる、ってことね」


「私は全身真っ赤なのに、何で君は平然としているのかな!? こういうのってお互い照れて、困ったように笑い合ってから誤魔化すのが定番じゃないの!?」


「理不尽な逆ギレが飛んできた。普通に間違えただけだし、気にしないでくれ」


 俺の言葉に名雲さんは小さく舌打ちを返し(行儀が悪い)、箱を入念に揺らす。


「話を戻すけど……四十連したところで、単純計算で確率は八割だよ。二億円を手に入れて運を使い果たした君には、結構厳しい数字じゃない?」


「俺とは逆の考えだな。だからこそ強運な俺が、負けるわけがないんだ」


「なるほど。そういう思い切りの良さだけは、素直に格好いいと思うよ」


 そして名雲さんは、くじの箱を座卓の中央に置いた。


「それじゃあ空見君。敗北へ続く四十回の開封作業を……好きなタイミングで開始してくれて構わないよ」


「さっさと引くぞ。幸運ってやつは、待つより迎えに来て欲しいものだからな」


 まずは一枚。躊躇なく開封するが、当然のように白紙。ハズレだ。

 止まるな。まだまだ弾はある。三十九枚が白紙でも、最後の一枚で仕留めればいい。


 二枚。三枚……そしてあっという間に、最初の十枚が終わる。


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