第18話 クズな彼女は電波が欲しい-2
「お邪魔するよ、空見君」
日が落ち始めた頃、約束通り名雲さんが部屋にやってきた。
「当たり前のように合鍵を使って、玄関を開けたのはもう諦めるとしよう。だけど今日でその鍵を置いて帰ってくれよ?」
「そっか……私たち、終わりなんだね。君に鍵を貰えて、ちょっと舞い上がっていたみたい。恥ずかしいね、私……ぐすっ」
「一方的に失恋しないで? しかも振られた側として被害者演出しているけど、泣きたいのは鍵を盗まれた俺の方だからな?」
「仕方ないなあ。もう複製は終わったから、原本の方は返しておくよ」
「めちゃくちゃ怖いこと言っている自覚あるか? 父親にも合鍵渡してないんだぞ」
話をしながら名雲さんは靴を脱ぎ、座卓の横にリュックを置く。
そこからタブレットを取り出して、起動しようとしたのだが。
「あれ? バッテリーが少ないや。ダウンロード中に充電してもいい?」
「ダメって言っても勝手にするんだろう? 隣の部屋にコードがまとめてあるから、必要な奴を使ってくれ。Wi-Fiのパスワードもその辺りにメモで貼ってある」
「ありがとう。やっぱり君は優しいね」
名雲さんは引き戸を開けて、部屋に入って行く。見られて困る物は無い、よな?
「空見くぅーん。充電が終わるまでの暇潰し、何か無いかなー?」
「……俺のタブレットで良ければ、好きに使っていいよ。漫画とかゲームアプリが入っているから、適当に遊んでくれ」
俺も調べ物をする時にタブレットを使うこともあるが、基本的にはスマホで完結してしまうので殆ど使わずに充電スタンドに置きっぱなしだ。
名雲さんは俺のタブレットを片手に戻ってきて、対面に座って早速弄り始める。
「空見君って意外とゲームするんだね? 私もこのアイドルを育成するゲーム、去年までちょっとやっていたんだよ」
「そうなのか? 俺も暇潰し程度だけどな。課金も一回だけ最高レア確定の記念ガチャを回したくらいだ」
「ほほう。つまり君は気軽に課金をしてしまうタイプだね? やっぱり二億円を手にしてから金銭感覚が変わったのかな? お札以外はお金じゃないと思っていない? 百円ショップとか小銭の存在は知っている?」
「俺はギャグ漫画に出てくる成金か? いや、成金なのは間違ってないか……」
急に運(しかも親の)だけで大金を得たわけだし、否定は出来ない。
「中学二年までは普通の家庭で育ったんだから、金銭感覚が急に変わることはないぞ。昔から欲しい物があったわけでもないからな。バカみたいに高い時計や車、ハイブランドの服なんかにも興味は無い。少なくとも俺にとっては価値が無い物だ」
「……じゃあ、価値がある物には惜しみなくお金を出すわけだね?」
「そうだけど?」
短く返すと、名雲さんはタブレットの電源を落としてルーズリーフを何枚か取り出す。
何かを書き始めているが、対面からだとよく分からない。勉強ではなさそうだけど。
「あとは、これをこうして……」
彼女は続けて定規を取り出し、ルーズリーフを均一に切り分ける。
次第にその全容が明らかになっていく。
「空見君。何か空っぽの箱とかない? あ、君の頭のことじゃないよ」
「不意打ちの悪口って結構びっくりするから止めてね? しかも学年一位の名雲さんに言われると、反論の余地が無いからさ……ティッシュ箱でいいか?」
「大丈夫だよ。やっぱり思春期の男の子って、ティッシュの消費が早いんだね?」
「ああ、昨日大量に使ったからな。床にお茶を零してさ」
名雲さんは『大量に使った』の部分で一瞬喜んでいたが、続く言葉を聞いて肩を落とした。
もしかしてこいつ、頭の中が割とピンク色だな?
「仕上げにこの紙を箱に入れてぇ……即席クジ箱の完成!」
「へぇ~。何これ、ゴミ?」
「ゴミとは酷いなぁ。この中には君がお金をジャブジャブ使いたくなるような、夢がいっぱい詰まった宝箱さ。例えば……これとか」
そう言って、名雲さんは箱の中から小さい三角形に折った紙を見せてくる。
屋台で使うくじにそっくりな形状だ。その紙を開くと、当然――。
「これは特等だね。私のことを一日自由にしていい券。君みたいな男の子には、実に刺激的な文言だろう? うふふ」




