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第17話 クズな彼女は電波が欲しい-1


「空見君の部屋って、Wi-Fiあるかな?」


 図書室の入り口で、声を掛けられた。

 相手が誰なのかは分かっている。

 この学校で俺に声をかけてくる物好きは、一人しか居ない。


「昼休みに声をかけてくるなんて、珍しいな。名雲さん」


「この辺りなら人も居ないからね。教室で声をかけても良かったんだけど、お昼ご飯を食べてさっさと教室を出た君が面白くて、尾行してみたのさ。委員会の仕事?」


「いいや。教室だと周りがうるさくて休めないから、自習スペースでスマホを弄るだけだよ」


「そっか。ダンゴムシは日当たりの悪い、石の裏側とかに潜むもんね」


「ダンゴムシ『も』じゃなくて? その言い方だと俺、完全にダンゴムシだろ。それより、Wi-Fiが何だって?」


 話を本題に戻すと、名雲さんは「そうそう」と思い出したように答える。


「家にあるモデム? だっけ? それが壊れちゃって、明日くらいまで代替機が送られてこないのさ。私、金曜の夜にはタブレットで映画を見るルーティンがあってね」


「……今日、金曜日だな。まさか俺の家で、映画を見せろとか?」


「いやいや、流石の私もそこまで君とエッチなイベントを起こす気は無いよ」


「どの辺りにエッチな要素があるのか説明してみろ」


「映画館ならともかく、男の子と二人きりで、しかも暗い部屋で密着しながら映画を観るって割と不健全なイベントじゃない? しかもお色気シーンとかあったら、もう若い男女を止めるものは何も無いよ?」


「……言われてみれば確かに? いや、別に恋人同士でもなければどうにもならんだろ」


 一蹴すると、名雲さんは「そうかなぁ?」と首を傾げる。


「友達同士で観ていてお色気シーンがあったら、普通に気まずいだけだろ。子供の頃、親と一緒に洋画を見て何回かやらかしたことがあるけど」


「分かる。ああいうのって誰が得するんだろうね? 最近の映画には無いイメージだけど。というわけで、君の家で映画をダウンロードさせて欲しいのさ!」


 最近はサブスクに加入していれば、認証している端末に映画をダウンロードして観る事が出来る。

俺は出先やタブレットで観ないから、あんまり使わない機能だけど。


「別にいいけど。利用料は千円でいいぞ」


「えぇ!? き、君は私からお金を巻き上げるの……? こんなに可憐な美少女がおねだりしているのに?」


「じゃあ聞くけど、逆の立場だったらどうする?」


「初回入会金が五百円で、利用時間三十分ごとに千円払ってもらうよ?」


「入会金か。その発想は無かった。じゃあネットカフェ空見でも導入させてもらうよ。というわけで千五百円払えば使わせてやる」


「アイディアの剽窃だ! そうやって何でもお金で解決しようとするの、本当に良くないと思う! 私と君の関係が、単にお金で繋がっているみたいじゃないか!」


 事実だろ。というか、お前がそういう関係を求めているだろ。

 ツッコミがわりに冷ややかな目線をくれてやると、名雲さんも矛盾に気付いたのか大きく溜息を吐いて踵を返す。


「分かった……住宅街を彷徨ってフリーWi-Fiを探すからいいもん……」


「確かにパスワード付けてないご家庭もあるけど、それをフリーWi-Fiと称するな。DSとかPSPを片手にうろつく小学生かよ」


 俺たちが小さい頃は、今ほどWi-Fiが普及していなかったからな。

 ネットに接続して追加データをダウンロードするためにうろつく同級生、結構居たな。

あれって法律的にはアウトなんじゃないだろうか。


「……映画をダウンロードするくらいなら、別にいいよ。終わったらすぐに家に帰れよ」


 名雲さんの背中があまりにも悲壮感を漂わせていたから、折れてしまった。

 俺の言葉を聞いて、彼女は振り返ってとても嬉しそうな顔を向けてくる。


「ありがとう、空見君! それじゃあ今日の放課後、遊びに行くね!」


 俺の返事を聞く前に、名雲さんは教室へと走り去って行った。

 今時のネット回線は速度もそれなりだし、十分くらいで済むだろう。


「ていうか、ファミレスとか喫茶店のWi-Fiを使えば良くないか?」


 今時は色んな店でWi-Fiを使えるし、わざわざウチに来なくてもいいだろうに。

 節約のためなのかもしれないが、軽率に誘ってしまったなと反省する。


「仲良くする理由なんて、俺たちには本来無いのにな」


 二億円の貯金を持つ俺と、それを狙う彼女。

 名雲さんが言う通り、金でしか繋がりが無い二人なのに。


「まあ、名雲さんもそのうち無駄な努力だって気付くだろう」


 俺は誰かのためにお金を使おうなんて、全く思わない人間なのだから。


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