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第15話 クズな彼女のおすそわけ-2

 

「二億円巻き上げようとする女子にしては、気前のいい行動だな」


「あはは。逆に言うと、将来君の二億円を手にする私にとって、二百円なんて誤差でしかないよ。あの子たちの笑顔を見ることが出来たんだ。安いものさ」


「前半の邪悪さを打ち消せてないぞ、その台詞」


「それに長年夢だった、『少年に優しくするミステリアスお姉さん』も出来たし」


「俺にロールプレイさせてまで叶えようとしていたもんな、それ」


 どちらからともなく笑いが漏れて、先ほどまでの切なさはすっかり霧消していた。

 駄菓子は人を幸せにしてくれる、魔法みたいなものかもな。

 なんて言ったら、絶対に揶揄(からか)われるから言わないけど。


「駄菓子は人を幸せにしてくれる、魔法みたいなものかもしれないね!」


「お前が言うのかよ、その台詞。あはは!」


 名雲さんは首を傾げていたけど、俺は笑いを堪えながら『ブタメン』の封を開ける。


「もう五分くらい経っちゃったし、さっさと食べないと伸びるぞ」


「さっきの笑いは何だったのさ……もうっ」


 俺たちは店の外に設置された、赤いベンチに腰掛ける。

 背もたれの部分に描かれていたコーラのロゴも剥がれ落ちて、ここに多くの人が座っていた歴史を語っているかのようだった。


「しかし狭い町とはいえ、幼い頃に空見君もここに通っていたなんてね」


 ブタメンを啜りながら、合間に名雲さんが話を始める。


「小さい頃、もしかしてすれ違っていたかもな。ちなみに、この店の前に小さな空き地があったのは覚えているか?」


「うん。今は住宅が立っているけど、公園みたいに使っている子が多かったね」


「ああ。俺はよくあそこで買った駄菓子を食べていたんだ。小さい頃は『ねりあめ』が好きでさ。延々と練っていたら、隣に同い年くらいの子が座っていて。物欲しそうに見ていたんだよ」


「……それで、君はその子に分けてあげたの?」


「当然だ。幼い頃の俺は天使だったからな。それから二人で遊んだような記憶がある。その子と会ったのは一度だけだったけど、妙に印象深い思い出だよ」


 話し終えて、俺はブタメンを一気に啜る。

 子供の頃は量が多い印象があったけど、高校生になった今じゃ、数口で食べ終えてしまうもんだな。


「……不思議だ」


 隣に座っている名雲さんは、ブタメンを食べずに呟く。


「どういうことだ?」


「私も小さい頃、そこの空き地で同い年くらいの子と遊んだ記憶があって。確か、美波ちゃんと出会う前だったし、あの子じゃない。それこそ『ねりあめ』を食べたし、あれも当たりが付いている商品だよね?」


「あ、ああ。袋の内側に書いてあるはず」


「その子と二人で、当たりを引き換えた記憶もある。空見君は? その時のこと、覚えていたりしない?」


 そう言われても、まだ小学校に入る前の話だ。

 流石に細部までは覚えていないし、その子の性別すらも分からない。曖昧なことだらけだ。


「いや、あんまり。でも、よくある話じゃないか? 駄菓子屋の前で子供同士が遊ぶなんて、ありふれているだろ。その時、俺たちが出会っているなんてこと……」


「あはは、流石に無いよね。だけど、そうだったら面白くない? 今よりずっと前に、今日と同じような日を二人で過ごしていたとしたら? 私と君の間に、まさかの幼馴染属性が付いてしまうよ。私には美波ちゃんよりも前に出会った、真の幼馴染になるね」


 果たして、そんな都合のいいことがあるだろうか。

 もしかしたら、あの記憶力抜群の店主なら、答えを知っているかもしれない。


 世の中にたくさんある恋物語みたいな、ご都合主義のロマンス。

 金で繋がっている(正しくは、繋がろうと画策されている)俺たちの間に、忘れていた繋がりがもう一つあるとしたら――。


「どちらにせよ、何も変わらないだろうけどな」


「リアリストだね、君は。少なくとも私たちの関係を定義するのに、『友達』っていう便利な言葉が使えるようになるのに」


「じゃあ、幼い頃からの友達だったら貯金を巻き上げようと思わなかったか?」


「それについてはノーコメント、かな。ふふっ」


「否定できないっていうのは、卑しい気持ちがあるってことと同義だぞ」


 有り得たかもしれない、『IF』の話をしながら俺たちは駄菓子を味わった。

 こうやってベンチに横並びで座って、談笑しているのに。友達同士じゃない。

 変な関係だなと思いながら、やがて俺たちは日が落ちる頃にアパートに戻った。


 名雲さんに預かっていたリュックを渡し、彼女を見送ってから駄菓子のゴミを捨てようとしてあることに気付く。


「まだ余っている駄菓子があったのか」


 袋の中の残骸たちに、二つの小さな駄菓子が埋もれているのを見つける。

 それを取り出して、思わず小さな笑いが漏れてしまう。

 確か、お婆ちゃんがオマケしてくれた駄菓子だったはずだ。


「あの日のことは駄菓子屋の『神』のみぞ知る、か……」


 俺は二本の『()()()()』を机の上に置いて、手を洗って夕食の準備を始めるのだった。


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