第13話 クズな彼女は魔法を見せたい-2
名雲さんがパッケージを開けると、台紙部分にその結果が表示されていた。
ひらがな三文字。残念ながら、【はずれ】だ。
確かこの商品は当たりだったら金額が書かれているはずだし。
「……じゃあ、練習はこれくらいにするとして」
「小学生かな? やり方が汚い。諦めて俺に駄菓子を奢れ」
「あと一回! あと一回だけ! 『おとくでっせ』じゃなくて、別の駄菓子でいいから!」
「そう言われてもな……じゃあ、『チョコボール』はどうだ? 色んな番組や動画サイトで検証されていたけど、結局見分けがつかないって噂だけど」
「いいよ。だけど残念だったね。これについても私は下調べを済ませているから、今度こそ空見君の負けだよ!」
名雲さんはチョコボールを何個か手に取り、パッケージを見比べる。
そして数分間吟味を続け、ようやく狙いを定めたらしい。
「これだね! お婆ちゃん、これは七十円でしたっけ?」
「丁度今月から値上げが始まって百四十円だよ、お嬢ちゃん」
「ひゃっ……!? もう駄菓子の金額じゃないよぉ……くうぅ」
名雲さんは絶句した様子でお会計を済ませた。
いや、俺も死ぬほど驚いたけど。今そんなに高いのか……。
「そ、それじゃあ開けるよ……空見君。ぱかっと、な」
「珍しいタイプの掛け声だ。ちなみに結果は?」
名雲さんの手元を覗き込むと、お察しの通りハズレだった。
「綺麗な黄色だね。天使は舞い降りなかったみたいだけど。さて、何を買ってもらうかな?」
「そ、空見君! 棚の上のプラモに目を向けているけど、あれはダメだよ!? あれ以外なら何でもいいから!」
「お婆ちゃん、店先に並んでいるアーケードゲームの筐体って買い取れますか?」
「十五万円だよ、坊や」
「め、メタルスラッグもダメだからぁ! お婆ちゃんも生々しい金額答えなくていいので!」
涙目になって叫ぶ名雲さんは不憫で、ちょっとだけ可愛かったけど。
結局俺は『コーンポタージュ』を買ってもらい、それ以外にも二人でいくつか駄菓子を買った。
色々買っても五百円くらいで、駄菓子の安さを改めて実感する。
「相変わらず、坊やはとうもろこしのお菓子が好きなんだねぇ」
会計の途中に店主のお婆ちゃんに声をかけられ、驚きを隠せなかった。
「お、覚えているんですか? 最後に来たの、十年以上前ですけど」
「もちろんですとも。そっちのお嬢ちゃんは、お金のチョコね。殆ど当たりを引けなかったけど、大きくなっても運の悪さは変わらないのねぇ」
「あ、あはは。空見君の前で恥ずかしい過去をバラさないでください……」
照れながら俯く名雲さんを見て、お婆ちゃんは優しく微笑む。
お客さんのことを全員、覚えているんだ……。好きなお菓子のことまで、全部。
一体どんな記憶力をしているのだろうと感嘆していると、お婆ちゃんはレジの横にあった小さなお菓子を、会計後にビニール袋にいくつか入れてくれた。
「可愛い子たちにサービスしようね。ずっと仲良くするんだよ」
「ありがとうございます……! お婆さんも、これからも元気でお店を続けて」
「ううん。今月で終わりなの、このお店」
労いの言葉をかけようとして、先行するようにお婆ちゃんの口から出てきた言葉に、俺たちは咄嗟に言葉を返せなかった。
「私も歳だし、病気もしているからね。旦那も後継ぎも居ないから店を閉じて、この家も売るの。息子夫婦の住む家にお邪魔する予定なのよ」
「そう、ですか……思い出深い店なので、悲しいです」
「ありがとうねぇ。最近は子供も少ないし、駄菓子よりもおいしいお菓子がいっぱいあるから、そろそろ潮時だとは思っていたの。あなたたちが来てくれて、私も色々思い出せて嬉しいわぁ。本当に、ありがとうねぇ」
大して買い物もしていない俺たちに、お婆ちゃんは何度も感謝を繰り返す。
買った物を受け取っても、何となくすぐに出て行く気持ちになれなくて。
俺はレジの近くに並ぶ、ある商品を手に取って、もう一度会計台の上に置く。
「「これもください」」
全く同じ言葉が重なる。
隣を見ると、名雲さんが『おとくでっせ』を二個、俺は『ブタメン』を二個、それぞれ買おうとしていた。
「ありがとうねぇ、二人とも。お湯も入れてあげるからね」
お婆ちゃんは代金を受け取ると、レジの裏にあるポットから『ブタメン』にお湯を注いでくれた。
それを待つ俺たちはしばらく無言だったけど。
「ふふっ。君と同じこと、考えちゃったみたい。ちゃんと仲良しだね、私たち?」
名雲さんは悪戯っぽく笑って、俺を見つめてくる。
その言葉にどう返そうか悩んでいると、お婆ちゃんがお湯を入れたカップを手渡してきたので、「ありがとうございます」とお礼の言葉が先に出ることになった。
今度こそ店を出て行こうとすると、最後に名雲さんがもう一度振り返った。
「これからもずっと長生きしてね、お婆ちゃん!」
その全く嫌味の無い声と笑顔に、お婆ちゃんは幸せそうに「ありがとうねぇ」と呟くのだった。




