第12話 クズな彼女は魔法を見せたい-1
「ところで名雲さん。魔法を見せてくれるって言っていたけど」
「おやおや、君は欲しがりさんだね。お姉さんにおねだりするなんて、いけない子供だ。近くの小学校の子かな?」
「急にロールプレイが始まった。あなたと同じ高校の子ですけど」
「可愛げが無いなあ。ところで少年、今いくら持っている? お姉さん、外にあるメタルスラッグを遊びたいから五十円貸してくれない?」
「流行りのショタと絡むミステリアスお姉さんかと思ったら、ただのカツアゲ女だった。いいから早く魔法を見せてくれよ」
「仕方ないなあ。空見君って、駄菓子を買う時に何を重視する?」
「値段と量かな。子供の頃は腹いっぱいにお菓子を食べたかったし」
少なくとも、味で選ぶということは無かったはずだ。
量を重視するからガム系は子供心にもコスパが悪くて、殆ど買わなかったし。
「俺は三十円で買える『コーンポタージュ』っていうスナック菓子が好きだったな」
「なるほど。私は駄菓子にもゲーム性を求めていたから、そういうエンタメ性の無い雑魚菓子には目を向けることはなかったよ」
「俺の好きなスナックを雑魚扱いしたな? 喧嘩するか?」
「やっぱり女の子はね、常に刺激を求める生き物なのさ。例えばそう、これとかね!」
名雲さんは平積みされた駄菓子の山から、一つ手に取る。
大きい硬貨の形をしたチョコ菓子、『おとくでっせ』だ。
「あー、懐かしいな。五百円の形をした薄いチョコだ。って……良く見たら、デザインが最近の物になっているんだな?」
「そう! 時代に合わせて硬貨の年号も令和になっているんだよね。私も今気付いたから偉そうには言えないけど。そしてこの駄菓子には……当たりが付いているんだ!」
「なるほど。魔法ってやつで当たりを一発で当てようって話?」
「……話を勝手に進める男子、お姉さんは好きじゃないな」
割と本気で不機嫌そうに唇を尖らせた名雲さんを宥めようと、俺は続きを促す。
「ど、どうやって当たりが分かるんだ? もし一発で当てたらめちゃくちゃすごいな!」
「おだて方がゼロ点。君には教えないし帰るから。またね」
「駄菓子屋デートでこんな雰囲気悪くなることある!? あ、いや……デートじゃないけど」
いい加減に言葉を選んでしまった。また名雲さんの機嫌が悪くなるぞ、これ……。
「もうっ、仕方ないなあ! 君が必死すぎて可愛いから許してあげよう!」
何でか知らないけど許されたし、何なら上機嫌だ。
そんなに俺の困った顔がツボだったのだろうか……うーん。嫌な女子だ。
「聞いた話だとね、駄菓子の当たりって法則があるみたい。輸送箱を開けた時に、お店の人が分かりやすいように一番後ろに当たり付がまとめられているとか」
「そんな分かりやすい区別するか?」
「ほら、店によっては当たりが交換出来ないパターンとかあるでしょ?」
そう言われて、真っ先に思い付いたのはコンビニやスーパー。
レジで割引対応が出来ないから、当たりが出ても引き換え出来ないことがあるはず。
何度か売り場でそういう注意書きが貼られているのを見た記憶がある。
「いや……でも当たり付の商品を抜いて、それはどうするんだ? 廃棄か?」
「確か当たりの金額と同等の個数が別個に入っているみたいだよ。だから廃棄にしても店の損失は無いし、素直に当たりを引き換えられても赤字にはならないとか」
良く出来た仕組みだな。もちろん、仕入れ値に含まれているんだろうけど。
説明を終えて、名雲さんは『おとくでっせ』の箱から一つ抜き取る。
縦に詰められたタイプの箱なので、底から取った形だ。
「絶対にこれが当たりだよ。私の魔法を見せてあげよう。お婆ちゃん、これ一つください! 確か三十円でしたっけ?」
名雲さんに声をかけられた店主は、驚いたように目を丸くしていた。
もしかして入店どころか、俺たちが騒いでいたのも気付かなかったとか?
「今は一個四十円だよ、お嬢ちゃん」
「ぐうぅ……令和になって値上げの影響がこんなところにも……悲しすぎる」
名雲さんは悲しそうな顔で支払いを終えて、俺の元に戻ってくる。
「よし。これで当たったら、空見君は魔法の見物料として私に千円払ってね」
「千円!? お前、四十円のギャンブルに対するリターンとしては破格すぎるだろ! リスクゼロに等しいじゃないか、バカバカしい」
「代わりにハズレだったら、私が空見君の欲しい物を何でも買ってあげる。ただしこのお店で売られているものだけね!」
やっぱりリスクゼロじゃねぇか。分の悪い賭けだ。
「さてさて、一体いくらの当たりが出るかな……っと!」




