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第10話 クズな彼女は知りたがり-2

 

「女子? ああ、手賀先輩のことか。普通に委員会が同じだけの先輩だ」


「その割には、やけに楽しそうにしていなかった? 私には見せないような表情や、多彩なツッコミとイジリ芸を披露していたようだけど?」


「いつから見ていたんだ……ていうか、それはそうだろ。仕事とはいえ手賀先輩とは四月から週に一日三時間は同じ時間を過ごしているからな」


「ふむふむ。単純計算で五十時間くらいだね。じゃあ私もそれくらい君と同じ時間を過ごしたら、仲良しになれたりするのかな?」


「どうかな。下心しかない名雲さんと、優しく後輩の面倒を見てくれる手賀先輩とじゃ、比較は出来ないと思うし」


 俺の言葉に、何故だか名雲さんは返事をしない。

 不思議に思いながらゆっくり階段を下りていると、その最中に呟きが聞こえた。


「……あれは下心、あると思うけどね」


「うん? どういうことだ?」


「君は知らなくていいよ。そのまま健やかに育って欲しい」


 これ以上聞くのも野暮な気がして(そして面倒だったので)、俺たちは教室までの残り僅かな道中は黙ったままだった。

 教室は見回りの先生が来るからか、まだ照明が点いたままだった。

 俺は中に入って名雲さんを椅子に座らせようとしてあげたのだが。


「ありがとう、空見君。痺れは取れたからもう大丈夫だよ」


 名雲さんは俺の背中から離れて、ゆっくりと立ち上がる。

 まだちょっと痺れているのか、少しふらついた様子だったが痛みに悶えている様子は無い。


「平気か? 無理しなくてもいいぞ」


「平気じゃない。って言ったら、家までおぶってくれるのかな?」


「流石に運賃を取るぞ。料金は一万円だ」


「言質を取ったから今度貯金を下ろしてくるね。登下校で利用するからよろしく。断ったら君の親にクレームを入れるから覚悟するように」


「これカスタマーハラスメントの亜種? そもそもおんぶして登校する姿を全校生徒に見られて平気なのか? メンタルがダイヤモンドだろ」


「そこまでじゃないよ。せいぜいサーメットくらい」


「……くそっ! 学が無いせいで重なったボケを返せない……っ!」


 そもそもどこで勉強するんだ、そんなの。化学か物理か?

 名雲さんは勝ち誇った顔で、少し高い位置にある俺の顔を覗き込んでくる。


「知りたい? 情報料は五百円でいいよ」


「昔の哲学者が言っていた通り、知識は力だな。金を巻き上げるための力だ……」


 これも誤用だと思うけど。この女に限ってはある意味正しいだろう。


「ふふっ、冗談だよ。君って本当に面白いよね。さて、それじゃあ図書室から教室まで私の身体を堪能した料金の話なんだけど」


「おい!? 流石にそれは人の善意を踏みにじりすぎだろ! 下心で運んだわけじゃないし、別に脚以外触れてない」


「女子が男子の背中に密着したら、()()()()()()()()があるよね?」


「……ありますけどぉ」


 意識しなかったと言えば嘘になるけどぉ。

 結局、罠だったわけか。払うかどうかは別として、クズすぎるだろこいつ……。


「脚はサービスするとして、胸は二つあるから実質二倍の料金が掛かります。ついでに私の胸はそれなりに大きいので、特別料金が発生するのと、あと追加で夜間料金を貰うとして」


「計算式が卑劣すぎる。数学の専門家に精査してもらいたい」


「アルキメデスが現代に居たとしても、ここでは私がルールだよ、空見君。というわけで、料金は百円でいいよ」


「……どういうこと? え? つまり百円払えば……?」


「料金の安さよりまずそこに目を向ける君って、本当のドヘンタイなのかな……」


「これについては俺が全面的に悪い。ごめんなさい。で、どういうことだ?」


「本来なら数十万円は払ってもらいたいけど、君の優しさで特別割引してあげる。だけど忘れないように【空見君通帳】に記帳しておくから、ある程度貯まったら払ってね?」


 反論は許しません。

 そう言い残して、名雲さんはさっさと昇降口へと向かって行ってしまった。

 一緒に帰る気は無いらしい。俺は教室に入って、置きっぱなしだった通学鞄を回収する。


 背中がやけに軽い。一人分の重みが消えたんだから、当たり前のことだけど。


「全然重くなかったな。何なら、心配になるくらい軽かった」


 俺たちが友達や恋人同士なら、一緒に下校して。

 その途中でコンビニに立ち寄って、買い食いでもしていたのかもしれないけど。


 何でもない俺たちは、それぞれの家に真っ直ぐ帰るだけだ。


「……せめて、途中までは見送るべきだったか?」


 まだ人通りはある時間だけど、女子が一人で帰るのは危ないと思うし。

 それでもやっぱり走って追いかけるのは違う気がして、つい溜息が漏れる。


「もう少しだけ、気配りが出来る人間になりたいもんだ……」


 配慮の出来ない自分を嫌悪しながら、俺は一人で昇降口へ向かうのだった。


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