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夢を見る


ただ見ているだけだったけど、好きだった。


図書室から見えるグラウンドで、いつも楽しそうにボールを追いかけていた。

野球部の仲間たちとワイワイ。


いつも輪の中でいじられ可愛がられ、頼られていた。


モデルをやっている美人さんと付き合っているのはもちろん知っていた。

休みがちではあったけど、彼女が登校してくるときは、ずっと一緒に居たから。


軽くあしらう彼女の後を、あーちゃんあーちゃんと嬉々として追いかける坊主頭。


ツンとしていても、彼女が本気で嫌がっていないのは明白で、当然のように隣に収まっていた。


周りの仲間たちは慣れたもので、揶揄うことすらなく彼女に隣を譲った。


真紘が可哀想とは思わなかった。

彼女は図書室で勉強をして真紘を待っている間、時折グラウンドを…いや、グラウンドで練習する真紘をじっと見つめていたから。


「ねぇ、まぁくん」

「どれ?」

「103ページの問3」

「ああ、これはね、ここが二等辺三角形になってるから…」


試験前にはよく真紘が彼女に勉強を教えていた。


日に焼けた鍛えた大きな体の彼と、色白で細くて、誰から見ても可愛い彼女は、並ぶと美女と野獣という感じであった。


彼女は可愛くて男子に大人気だし、野球部のエースの真紘はモテていたし、彼女は何かと嫉妬の対象になっていた。


SNSの明るいキャラクターとは打って変わって、男子に愛想も振り撒かないし、女子とつるんでいるところも見かけたことはなかった。


SNSで真紘の話は出て来ず、時折イケメンなモデルや若手実業家とかとの食事風景なんかを見かけることもあった。


放課後、真紘が部活でいないのをいいことに、声をかける男子生徒にも、最初は和やかに断り、徐々に冷たく、最終的には図書室を追い出していた。


モデルなんてしているのに、学校には一切メイクをして来ずスカートも少し短くしている程度。

それなのにまつ毛はバサバサで唇はつややか。


そして馴れ合わないときたら、お高く止まっていると反感はすごかったことだろう。


陰湿な嫌がらせもあったのかもしれないが、彼女は淡々とやり返していた。


「マヒロの邪魔?それ誰が言ったんですかぁ?本人?」

「試合が近い…から…」

「試合?今、部活の時間でしょー?選手のサポートするハズのアナタは今サボってますけどぉ、真剣に部活やってる人の邪魔じゃないですかぁ?」

「ーーーっ!!」

「アタシより長い時間一緒に活動しててぇ、何の努力もしてなくてぇ、勝手にマヒロに夢見て?見向きもされないの、アタシのせいにされてもぉ」


正しく、辛辣な言葉を、紅く艶やかな唇は淀みなく紡いだ。

野球部のマネージャーらしき女の子は、ゴニョゴニョ言って走って去って行った。


「すみません、煩くして」


図書室の受付にいた私と目が合うとペコリと頭を下げて、彼女は席に戻った。


ノーメイクでも派手な見た目の彼女は図書室に馴染んでいない。


でも、礼儀正しいし、ああ見えて誠実だ。


真紘は見る目があるなと思ったものだ。


彼女は、そんなことも真紘に言い付けることもなければ、機嫌が悪くなることもなく、部活後に図書室まで迎えに来た真紘と連れ立って帰って行った。


「あーちゃん、ダイエット終わったんだよね?アイス食べて帰ろうよ」

「試合近いんじゃないのー。エースが遊んでたら」

「うん、夜トレーニングする!みんなラーメン食べて帰ったりしてるんだから、アイス食べてもバチ当たらないよ」

「お腹空くんじゃ」

「んーコンビニで何か買うから寄っていい?」

「…ん。」


偉そうに、何てさっきのマネージャーの子は言っていたが、こうやってさりげなく真紘を気遣うのが彼女だ。


「そうだ、あーちゃん、あの、来月の試合なんだけど…」

「…ああ、引退試合になるかもってやつー?姉さんと行くよぉ」

「っ!やったぁ!待ってる!頑張るから!」

「…うん。」


2人が並んでいる姿に胸が痛みつつも、仲睦まじさに憧れてもいた。


仲を引き裂こうとも…いや、少しでも入り込める隙もないことはわかっているのに。


姿が見れて、声が聞けて、笑顔が見れて、ドキドキして。



だから、彼女の言葉は、正しいのに、深く深く刺さった。


何の努力もしないで、遠くで見ているだけで、夢を見ている。


それはすみれそのものだったから。




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