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幸せです


抱きしめられたまま、理人の腕の中で目が覚めた。


下腹部がズキズキ痛む。


すみれはモゾモゾ動いて、理人に手を伸ばしてふわふわの髪を梳く。

頬はちょっとチクチクしている。


無邪気な寝顔も可愛くて、頭を撫でながらずっと見ていられそうだ。


「ん…」


うっすら目を開けて、眠たそうにすみれを見つめる。


「おはようございます」

「ん…?」


焦点の定まらない、ぼんやりした理人なんて、普段絶対見られない。

眠そうに目をこすって、擦り寄ってくる理人をしばらく静かに眺めていた。


かっ、かわいい。


普段隙がなくクールでスマートな理人がふにゃふにゃしているのはレアだ。ギャップがいい。


「あれ…?すみれ?」

「起きました?おはようございます」

「おはよう?…ああ、おはよう」


漸く状況を理解したらしく、理人は布団の中ですみれを抱きしめた。


「体、大丈夫?ごめんね。痛いよね」


体格差もあって、時間をかけて十分ほぐしても痛みがあったのだ。


痛がるすみれに、途中でやめて少しずつ慣らしていこうかと理人は提案したが、すみれは泣きながら首を振った。

「もう理人さんだけが我慢するのはイヤなの」

とねだって、最後まで抱いてもらった。


気持ちいいより痛みが大きかったけど、胸のあたりは満たされていた。


「理人さんは…気持ちよかったですか…?」

「…最高にね。ほんとそういうトコ」


すみれをすっぽりと包み込んで、背中を撫でる。

昨夜、多幸感に包まれたまま眠ったのを思い出した。


「痛いのも、幸せです」

「…待ってダメ!何かマズいものに目覚めちゃいそうだからそういうこと言わないで!」


理人が眉間を押さえて、悶える。

珍しい理人の慌てっぷりに、すみれは吹き出した。


「それでもいいですよ」

「ダメ。次はちゃんとすみれも気持ちよくするからね。すみれだけが我慢するの、おれだってイヤだから」


昨日必死に伝えた言葉を理人にも返されて、すみれは赤くなった。

ああ、好きだ。


「背中、爪立てちゃった…」

「いいよ。痛いのはちゃんとおれにも分けて」


こういう、甘いセリフを照れもせず言えるのがずるい。


すみれは真っ赤なのに、理人は余裕でキスを落とした。


「…理人さんって…」

「うん?」

「なんでそんなキザなこと、照れずに言えちゃうんですか…」


すみれが真っ赤になって聞くと理人はきょとん。


「そう、なの?」

「えっ」

「あー…待って。これ姉たちの影響かもしれない…小さい頃から彼氏のアレがダメ、コレがダメ、男はこうしろってのを耳にタコができるほど聞いていて…」


姉2人の顔が思い浮かんだ。

言いそう。なんとなく…


「イヤだったら言ってほしい。そういうのよくわからない」


かわいい。

しょんぼりしている姿も。

それになんだかホッとした。


「そのままでいいです…その、理人さん女慣れしてるのがイヤだなと思っただけで…」

「それ」


理人がすみれをぎゅうぎゅう抱きしめる。


「もしかしてヤキモチ妬いてくれてたの?嬉しい」

「ち、ちが……くない…けど…」

「うれしい」


しばらくそうやってじゃれて、朝ごはんにしようかとベッドを出る。


借りたスウェットは太もも丈。理人のサイズのズボンなど履けるはずもなく。


理人を悶えさせた。


「起き上がれる?ご飯食べれそう?」

「あっ、はい」

「何か作るから、すみれはのんびりしてて」


もうすっかり目は覚めたらしく、理人はベッドを出るとテキパキ朝ごはんを作り始めた。

すみれも起き上がり、ソファに移動して理人を眺めた。


トーストを作ってくれたらしく、お皿を並べていく。綺麗な焼け目のパンと、目玉焼き、ベーコン、トマト。コーンスープとコーヒーも。


「わっ、美味しそう」

「簡単なものですけれども」

「理人さん料理も上手」


こんなに長い時間を共にしたのは初めてだ。


幸せだ。


すみれは片付けもやらせてもらえなくて、またキッチンに立つ理人を眺めた。


ふとスマホを開くと、メッセージを入れていた母と弟から返信。母はOKとスタンプだけ。

あざみからは…。


「はあ…」

「どうしたの?」

「弟からお小言いただきました…」

「よかったら今度、正式に恋人として挨拶させてよ」

「でも、あざみが失礼なこと言いそうで…」

「第一印象がよくなかっただろうからね」

「理人さんは悪くないのに」

「いい弟さんだよ。すみれのことが大切なんでしょう。直接話したらちょっとは安心するんじゃないかな。」

「…反対されたら?」

「そのときは認めてくれるまで口説くしかないね」


理人は、あざみのことも蔑ろにしないでくれるらしい。

そんなの無視しろって言うことも、知らんぷりも、できるのに。


「…2人姉弟で、あざみも姉離れできてないというか、過保護というか…」


すみれが「姉のわたしがしっかりしなきゃ」と張り切り、背負い込んだ結果体調崩したりして怒られたり…を、幼い頃から繰り返した結果なので、責任はすみれにあるのだが。


「小さい頃から2人で助け合ってたんでしょう?心配にもなるよ」


あざみとの関係性を詳細に話したことは、たぶん、ない。

でも、断片的な情報から察してくれていたのだろう。


「……大事な弟、なんです……」

「うん」


理人は隣に座ってすみれを抱き寄せた。


「それなら尚更、おれも認めてもらいたい」


肩…には届かなくて、二の腕に頭を預ける。


理人と同じシャンプーの匂いのする髪の毛を、くるくる長い指に絡める。

ネコっ毛でコンプレックスだったこの髪が、どうやらお気に入りらしかった。


「敬語、やめようか」

「えっ」

「彼氏に敬語は、それこそ上下関係に見えちゃうでしょ」

「わっ」


ひょいと抱き上げて、理人の膝に乗せられた。


「そうですけど…」

「ですけど?」

「…そう、だけど…」

「ふふ。嬉しいなあ。最初提案したときは拒否されたし」

「そんなことあ…った?」

「うん」


全く覚えがない。

きっと、知らず知らずのうちに理人を傷付けていたのだろう。


「すみれが歩み寄ってくれるの、とっても嬉しい」

「そんなの…」


言えない感情も全部受け止めてくれる。


「わたしの方が思ってたのに…ずっと…」


理人は破顔して、


「浮かれてるけど今日は許して」


すみれをまた抱きしめてキスをくれた。






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