末永く、お幸せに
客先へのノベルティの準備を営業部と連携していたが、営業部のスケジュールとの行き違いでギリギリになってしまった。
ノベルティの担当だったすみれと、アポがない日で手が空いていた真紘で配れる状態への袋詰めを任された。
会議室で2人、資料とノベルティを薄い袋に入れていく。
「ごめんね、通常業務もあるのに。営業部の部長も謝ってた」
「い、いえ」
黙々と詰めていきながら、時折思い出したように話をする。
不思議だな。
ちょっと前ならこういうとき、緊張してソワソワして、作業どころじゃなかったのに。
大きな左の手の薬指に、シルバーの指輪が光るのを見て、こんな平静でいられなかったんじゃないだろうか。
今なら。
もしかしたら。
真紘に伝えられるんじゃないだろうか。
「杉下…高藤さんは、奥様のどんなとこが好きなんですか?」
「んー?全部」
照れもせず、即答。
高校生の頃の真紘のベッタリ具合を思い出して、相変わらずの溺愛っぷりに、傷付くより安堵した。
「あー…っと、こういうこと言うなって怒られたんだった。」
「ふふっ」
ふふふふ。変わってない。
真紘が彼女のことを大好きで、きっと彼女もツンとしながら真紘に甘えていて。
「ずっと、いいなと思ってたんです」
あんなに愛されて。仲睦まじくて。
愛して、愛されていることが。
「あは、覚えてるの?」
「有名でしたから」
「美女と野獣って?」
「知ってたんですか」
「高嶺の花だから諦めろってみんなに言われたからねえ」
「あんなにお似合いなのに」
思わず、本心が出てしまった。
真紘はきょとんとしている。
「そう?」
「そうですよ!だって彼女さん杉下さんにだけ頼ってて!図書室から練習してるのずっと見てて!仲睦まじく勉強してるのもずっといいなって憧れ…っ」
はっと、話しすぎたことに気がついて口を押さえる。
こんなこと、言うつもりなんかなかったのに。
「そっか…そんな風に言ってくれる人がいるとは思わなかった」
「えっ」
「彼女も…まあわかるかも知れないけど、クールだから…高校の頃の、脈なし以外、初めて言われた。」
青くなったすみれに、真紘は照れたような表情を浮かべる。
「そう見えてたなら嬉しい」
そんな顔、初めて見た。
ダメだと思って、全ての感情に蓋をしていたのに。
それを。
すみれの思ったことを、記憶を、喜んでもらえるなんて思わなかった。
ちょっとだけ、欲が出た。
「実は…わたし入学式の日に、具合悪くなって、迷子になって、杉下さんに助けてもらって」
「入学式…?ああーなんかあったかも。よく覚えてるね。すごい偶然。」
覚えててくれた。
それだけで。
「ず、ずっとお礼、言いたくて」
「あはは、律儀にどうも」
満面の笑みを向けてもらえて。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
幸せだ。
幸せだけど、ドキドキじゃなくて。
真紘が幸せそうで、よかったなぁと胸のあたりがあたたかくなる感じ。
「結婚、おめでとうございます」
不幸になってほしいなんで思ってなかった。
けど、おめでとうって口にして、こんなにしっくりくると思わなかった。
「すぎし…高藤さん。末永く、お幸せに」
「うん。ありがとう」
口にしたら、たったのそれだけを、受け取ってもらったら、ちょっと胸のあたりがスッと軽くなった。
もっと落ち込むかと思った。
お幸せになんて言えないと思っていた。
泣きたくなると思っていた。
すみれの長い長い初恋に、終止符が打たれた。




