手は繋ぐけど
「姉ちゃん最近よく出かけるけど、この前のアイツと会うわけ?」
家を出ようとしたところで、弟のあざみがすみれの前に立ちはだかった。
「う、うん、映画見ようって」
「はあ?」
眉を顰めたのを見て、理人の家でとは言わなくて正解だった。
「付き合ってるの?」
「えぇっと」
「好きなの?」
付き合っている。…のだと思う。
そのつもりだ。
でも、それを公言していいかは微妙だ。
口ごもると、あざみは苛立ったように続ける。
「姉ちゃん遊ばれてるんじゃないの」
「違うよ、そんなんじゃ」
同僚以上、恋人未満?
手は繋ぐけど、それだけ。
「チャラそうだったし」
「理人さんはそういう人じゃないって。誠実な人だよ」
「あのさ、そんな簡単に男を信用するなよな。ヤバい奴はヤバいですって顔に書いてないの!」
「心配しすぎだよ。理人さんは紳士だし」
「紳士って。そんなわけないだろ男なんて」
「優しいよ」
「そりゃ下心があるからだろ」
下心は…あるのかもしれないけど。
あざみが心配してくれているのは、わかる。
すみれが中途半端な回答だから、そうさせてしまっているのも。
「結構年上でしょ?」
「5個上?かな…」
「ほらあ」
「あざみだって年上の彼女と毎週遊んでるじゃない」
「いやそれ全く別の話だろ?姉ちゃんのこと心配して…」
「でも約束してるから…」
「だーかーらー!」
◇◆◇
「なら正式に彼氏として紹介してくれたらいいよ」
「えっ」
遅くなった理由を理人に伝えると、理人はあっけらかんと言った。
「彼氏ですって紹介した方が弟くんも安心するんじゃない?挨拶するよ」
「でもそれは…」
理人のことは好きだ。
好きだけど、同じだけの気持ちを返せる自信がなくて口ごもってしまう。
「まだダメかー」
ははっと笑って、理人はプロジェクターを起動している。
セットされていない手櫛で整えただけの髪が、ちょっと袖の長いセーターが、かわいい。
「シュークリームあるよ。カスタードと生クリーム、好きな方どうぞ」
「カスタードと生クリーム…理人さんは?」
「どっちも好き。半分ずつにする?」
「いいんですか?」
「うん」
「ありがとうございます。お茶淹れますね!」
「うん、ありがとう」
理人がいつもお菓子を用意してくれているから、すみれは手土産としてちょっとイイ紅茶を持ってきて置かせてもらっているのだ。
冷蔵庫から出したシュークリームと紅茶をローテーブルに乗せてソファの方を振り返ると、
「あっ」
至近距離で目があって、綺麗な瞳にすみれが映る。
どうしていいかわからなくて、目を閉じてしまった。
ふっと理人が笑ったのがわかった。
おでこに、やわらかい感覚。
それって、キ……!?
「座って。ほらほらすみれさん、始まりますよー」
「あ、はっ、はい」
いつもの調子の理人に促されるまま、すみれはおでこを押さえた。
一瞬だけど、触れた熱にフルフルと、首を振る。
「ポップコーン欲しくなるね」
映画のオープニングが流れる中、理人はすみれの手に指を絡めていたずらっぽく言った。
「キャラメル味がいいです」
「おれも好き」
好き、という単語にどきりとしてしまった。
違う。キャラメルポップコーンの話だ。
心臓が高鳴る。
理人の手を、ちょっとだけ握り返した。
今週は何しようか何食べようかってメッセージのやり取りをするのも、こうやって過ごす休日も、楽しみになっている。
手を繋ぐのも、おでこのキスも…嫌じゃなかったって。
好きに、なれるかな。




