尊敬する先輩のアドバイス
理人とは時折食事に行くようになった。
月に1回くらい。決まって仕事後。
飲みだったり、ご飯だけだったり、様々だ。
今日は小洒落た和食バル。
行ってみたいお店があると理人に言われたが、それは建前で、きっとすみれの好みに合わせてくれたのだろう。
「『高校の頃から知ってるお2人なので感極まってしまって』とか言えばバレないと思うけどね」
「…えっ」
理人のその言葉に、すみれは唖然とした。
バレないようにと、そればっかりで考えもしなかった。
「…ん?」
「その、方法が……」
ふふっと笑って、理人は日本酒を煽った。
「誤魔化せるでしょうか…」
「少なくとも本人にはバレない気がするけどね。保証はしない」
「い、意地悪…」
「うん」
早く振られたらいいとか言うし。
意地悪を言うくせに、こうやって飲みに来ては話を聞いてくれる。
進展なんてないってわかってるだろうに、何が楽しいのだろう。
「何事も真剣に取り組むのは荻原さんのいいところだけど、肩の力の抜き方も覚えるといいよね」
「…ハイ」
「あ、こっちのカルパッチョも美味しい」
理不尽に怒られたこともキツく詰められたこともないが、直属の上司だったときはやっぱり厳しかったのだろう。
柔和な雰囲気なのに、仕事のときはどこかクール。
そりゃそうか。仕事だもんね。
「そうそう、山岸さんが褒めてたよ。荻原さん仕事しやすいって」
「よ、よかった…」
すみれは気が抜けてテーブルに突っ伏した。
ニコニコ朗らかに仕事をしているから、かえって怖いのだ。
「ほらね。大丈夫だったでしょう。」
はい、と、すみれのお猪口に日本酒を注いだ。
「理人さんは、お仕事どうですか?」
「今必死で覚えてるところ。3年離れてたからね。」
「必死なの想像できないです」
「2年前課長になったときはそれはもう必死だったよ」
「そうは見えなかったです」
「後輩にはかっこいい姿見せたいんだよ、先輩は」
「後輩は先輩のかっこいい姿しか見てないですよ」
「…ありがとう」
ちょっと照れたような顔。
褒めるとたまにそんな顔を見せてくれて、可愛い。
仕事だけしていたときは、知らなかった。
お会計は割り勘。
それとなく、理人が多めに払ってくれるが。
何回か目のときにどうにか払わせてもらいたくて、「割り勘じゃなきゃもう来ません」と脅しにもならないそれを言ってから、理人が渋々折れてくれた。
だって、学生じゃないし。稼いでいるし。
対等というのはおこがましいが、尊敬する先輩に、おんぶに抱っこは嫌なのだ。
…いや、現状一方的に甘えている形ではあるのだが。




