仲良し同期
「翠ー!お昼どうする?」
システム部のAIこと川嶋翠の席の隣に丸椅子を持ってきて座っていると、営業部の槙田茜がやってきた。
「あれ、すみれちゃんだ。システム部にいるの珍しいね」
入口から小さいすみれは見えなかったようで、翠の近くに来て、すみれにも声をかけてくれた。
スラリとして爽やかで、ショートヘアがよく似合う。笑うと八重歯が覗いて可愛らしい。
男性に媚びるでもなくて、誰にでも分け隔てなく親切。
同僚にいじられても、同性に騒がれても、嫌な顔ひとつしない。
かっこいい女性だ。
「は、はい、総務の業務改善を、川嶋さんに手伝っていただいていて」
「ああそっか、それで山岸さん課長になったんだっけ。キリ悪ければ先にご飯行くけど」
「いや、ちょうど終わる。荻原さん、さっきのを来週までにまとめといてください。」
「はい。ありがとうございます。」
翠が紙の束をまとめてすみれに渡してくれた。
翠と茜はいつも一緒にいるから付き合っているのだろう。天真爛漫な茜とは真逆なのに仲が良いから不思議なものだ。
「翠、すみれちゃんだよ」
「……今まで俺が話してたんだよ。わかるよ、総務の荻原さんは」
「めっずらし。女の人の名前覚えないじゃん」
「人をなんだと思ってんの?仕事ができる人は覚えるよ。総務に連携するときは荻原さんに回してるから。」
意外な評価にたじろぐ。相変わらず何を考えているかわからない。
「理人さんじゃないんだ。あ、経営企画部異動したんだっけ」
「あの人も無駄嫌いだから楽だけど、席にいないことが多いから。総務以外にも連携するときは三浦さん。」
「ふーん?」
頭上で始まった会話に、そろそろと荷物をまとめるすみれ。
茜は少し考え込んで、椅子を片付けようたしていたすみれに声をかけた。
「すみれちゃんも一緒に行く?スープカレー食べに行くけど。あ、いつもお弁当?」
「今日はお弁当じゃないです…けどお邪魔じゃ」
「真紘も来るし、4人の方がいいよね。ボックス席で」
「あ、ご、ご迷惑でなければ…」
寝坊してよかった。
朝ごはんより化粧をとってよかった。
2人についてエレベーターに並ぶ。
「翠って各部署でお願いする人決めてるの?すごいね」
「当たり前でしょ」
いつだったか、翠からの書類で訂正をお願いしたことがあった。
今思えば、常に情報に過不足がない翠があんな初歩的なミスするとは思えない。あれはわざと簡単なところを間違えて様子を見てたのではないか。
確信めいたそれに、すみれはゾッとした。
すみれに対しては柔らかい表情を作ってはいるし、表面上は友好的だが…。
「お前どうやって仕事してんの?」
「困ってるとみんな声かけてくれるじゃん?」
「…あっそ。」
ポンポンと繰り広げられるやり取りに、すみれは感心してしまう。
「山岸課長、どう?新入社員研修のとき、すごく優しかった記憶があるー」
「ポンコツすぎて呆れてたけどね」
「え!?そうなの!?」
「社内規則のテスト何回やり直したと思ってんの」
「えへへ、8回?」
公認カップルとでもいうべき存在に、自分ならそんな堂々とできないと思いつつ、羨ましくある。
「荻原さんも一緒になったんだね。ごめんね、騒がしくて」
ボックス席で茜の隣に座っていると、目の前に後から来た真紘が座った。
「いっ、いえ」
「そうそう、この前のノベルティの対応、ありがとうね。助かった」
「は、はい!よかったです」
時折茜や真紘がすみれにも話題を振ってくれるが、仲の良い3人の話を聞くばかりになった。
テンポよく繰り広げられるからというのもあるけれど。
…この前みたいに、何てことない流れで彼女の話になったら、涙が出てきてしまうかもしれない。
だんだん、何を話しても、気持ちがバレてしまいそうな気さえしてくる。
そう思うと恐怖感さえあって口が開けなくなる。
だって、真紘に、周りの人に気持ちがバレてしまったら、生きていけない。
せっかくの機会なのに、緊張して真紘の顔も殆ど見れず、美味しいと評判のスープカレーも味が全然わからなかった。




