いい子にしてたから
もの思いに耽りながら、カタカタとひたすらに数字を打ち込む。
理人は小腹が空いたと外に行ったのでフロアに1人だ。
だからどうということも、ないのに。
帰ってくれても1人でできるのに。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい」
「クリスマスパーティーしよう?」
「へ?」
「クリスマスイブだし。気持ちだけね。椅子持ってこっちおいで」
チキンとケーキをコンビニの袋から出す。
「仕事中…」
「ちょっとくらい休憩取らないと」
「で、でも…」
共犯ねと悪い顔をして、理人は取り分けた。
給湯室から紙コップを持ってきて、お子様向けのシャンメリーを注いでくれた。
「はい、メリークリスマス」
「…メリークリスマス」
会社で2人で紙コップの乾杯。
変な感じだ。
かぶりついた骨付きのチキンは、意外とパリパリしていて美味しい。
「うち、いつもクリスマスは母さんがチキン焼いてくれたんだよね。ケーキとかも作る人だから、クリスマスやらないと年末って感じしなくて」
理人らしいなと思った。
恵まれた環境で大事にされてきたんだろう。
「中2までサンタさん信じてたなー。荻原さんは?」
チラリと理人の方を見て、見透かされそうで、手元のチキンに視線を落とした。
「…わからないです。うち、サンタさん来たことないので。」
すみれの家は母子家庭だ。
寂しい思いもしたが、母が一生懸命なことは子どもながらにもわかったし、弟と3人で支え合ってきたのだ。
一度だけ、母に尋ねたことがある。
困った顔をして「うちにはサンタさんは来ないのよ」と言われたのを覚えている。
それからは、すみれは弟を宥める係。
子どもながらに友達には曖昧に濁したまま、夢も壊さず駄々もこねなかったのは我ながら偉いと思うが、大人になると憐れまれるようになるのがまた煩わしい。
「言っちゃダメかもと思って友達の話は適当に合わせてました」
「ああ、そっか。優しいね、荻原さんは」
「は…」
「昔からしっかり者なんだね」
別に。そんなんじゃない。母が困るから。
すみれはモグモグとチキンを食べて誤魔化した。
「…美味しいです」
「コンビニすごいね。ケーキもクオリティ高いなー。シャンパンじゃなくて残念だけど」
何てことない話をしながら、ケーキのイチゴを大事に取っているのを笑われて、理人の分までもらってしまった。
◇◆◇
「は」
翌朝、出勤してみると、すみれのデスクには……
「ちょ、ちょちょちょっと理人さん…!」
バタバタと別部署から戻ってくる理人のところへ走る。
「おはよう」
「なっ、なんですかあれっ」
すみれはデスクに置いてあるお菓子を指さす。
「すみれちゃんがいい子にしてたから、サンタさんが来てくれたんじゃない?」
「あっ、なっ、なん…」
真っ赤になって言葉にならず口をパクパクさせるすみれに、理人はイタズラっぽくウインクしてみせた。
「よかったね」
「………アリガトウゴザイマス………」
ちょっと涙が滲んだ。
しずしずと席に戻ると、そこにはお菓子が詰まった赤いブーツ。
『Merry Xmas サンタより』と、メッセージカードが添えてあった。書類のやりとりで、よく見慣れている字。
どうしよう、嬉しい。
ニヤけてしまいそうになりながら、山になっている仕事を無心でこなした。




