はじまり
入学式の日だった。
緊張してなかなか眠れなかったのと、女の子の日とがかぶってしまって気持ち悪くなってしまった。
入学式の後のオリエンテーションの途中で先生に言って、教室を出た。
言われた通りの道をフラフラ歩いていたら、途中でめまいがしてうずくまってしまった。
「大丈夫?」
「はい、貧血…で…」
「立てる?」
「…もうだいじょぶ…」
「ちょっとごめんね」
「へっ」
見上げるほどの大きい体が、軽々とすみれの体を持ち上げた。
太い腕が横抱きにして、スタスタと歩き出す。
「保健室まで我慢してね。」
「あの…重いのに…!」
「ぜーんぜん」
ニカッと細められた目。
日に焼けた肌。
坊主頭。
筋肉質な大きい体。
野球のユニフォーム。
保健室までの道のりがとても長く感じる。
腕の中でじっとしてるしかできなかった。
「先生ー」
「マヒロくん、絆創膏なら勝手に…ってあら?」
「新入生の子、具合悪くなっちゃったみたい」
マヒロと呼ばれたその人は、保健室の先生に事情を話してくれて、先生に言う通りベッドに下ろしてくれた。
「怪我はしてないかな」
高くも低くもない声に、ただコクコク頷くしかできなかったのに、愛嬌のある笑顔を浮かべた。
じゃあお大事にと、爽やかに手を振って背を向けて戻って行く後ろ姿から、目が離せなかった。
マヒロと呼ばれたその人に、一瞬で恋をした。
桜の舞う、あるあたたかい日のこと。