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第2話 入学試験

 レヴィアー魔術学園。限られた実力を持つものしか入れない王立の学園だ。僕は今日という日にこの学園の死霊術科の入学試験を受ける。

 緊張は勿論している。だが、それ以上に高揚している。

 僕は、僕以外の死霊術師に会ったことがない。もともと、死霊術と言うのは限られた人しか扱えない。更にそのなかで死霊術を専門的に生業としているのは僅かなのだ。

 だから、僕以外の死霊術と言うのを見てみたい。この独学がどこまで通用するのか知ってみたい。

 浮き足立つのを抑え、道を歩く。その場所に近づくにつれ、人が多くなっていく。いよいよだ。


 さて、それから何事もなく学園へとたどり着く。死霊術科の試験会場は西門付近の訓練場となっている。チラッと名簿を見た限り、死霊術科を受けるのは僕を含め30人程度。だと言うのに、ここから更に絞られてくるのだから驚きだ。実技試験は午後からでそれまでは魔術の筆記試験。ここまで勉強したんだ。落とすわけにはいかない。


―――――――――――――――


 筆記試験は終わった。自身のほどは…まあ、受かってくれればいいが…と言ったところ。


 何はともあれ、今は目の前のことに集中だ。

 午後の実技試験の会場へと向かう。その場所に到着しても見知った姿はなかった。が、少し服装が目立つと感じた。

 話し声を感じる。そこで気がついた。僕だけ平民なのだ。他の人はおそらく、教会関係者。独学で学んでここまできたものなどいないように思える。

 耳をすませば聞こえる「なんだあいつ?」「一般人だろ?なんでここに?」と、そんな声。まあ、そうだよね。

 正直、落ち込む。だけど、ここで挫けてはいられない。それに、他の人の死霊術を見て学べる絶好のチャンスだ…。

 そうやって自分を奮い立たせた。


「それでは、死霊術科の試験を開始します。」


 試験監督が前に立ち、話し始めるとそこでようやく僕に対する目線が止んだ。

 なんだか不思議な雰囲気の先生だな。特徴的な白髪とローブ。年はまだ若そうだ。


「これから試験内容を説明します。とはいっても簡単です。まず、試験は個別に行います。何をしてもらうかですが、僕がここに解き放つ死霊を祓って下さい。以上です。何か質問はありますか?」


 先生が試験内容を告げたとたん、静寂に綻びが生じる。

 要は霊の浄化。簡単に言うが高等技術であり、死霊の程度では命の取り合いになる。

 誰かが聞いた。


「その死霊はどれ程の強さなのでしょう…?」


「うーん…まあ、人間が管理できるくらいと言っておこうかな。」


 含みの有る言い方だ。若干違和感は覚えるが、それでももう、前に進まなければならない。


 そうしてその試験は始まった。

 試験番号の早い順だ。僕は今回016番。少なくとも15人分は見ることが出来る。


「さてさて、準備はいいかい?」


「はい!」


 1番手…さあどんな奴だ。


「では始める。」


 そうして、試験監督がその場に解き放ったのは普段僕が相手にしているような死霊。青白い、俗にゴーストと呼ばれるものだ。

 心底ほっとした。あの程度なら楽だなと。だが同時に思った。この程度なら誰でも―――――。


「い、いぃっ…。」


「え?」


 思わず呟いた。その1番手は怖じ気づきなにも出来ずにいる。どう言うことなのだろうか?

 結局そいつは、言葉の1つも発さずに失格となった。

 どころか、僕より前のほとんどが失格。数名祈りの言葉を捧げるものがいて、その中の半分が除霊に成功した程度。

 少しばかり自分に違和感を覚えた。そうして、僕の番がやってきた。


 また、辺りはざわつく。平民に何が出来るんだ?とか、あいつも失格だよとか、そんな声が聞こえる。


「ヴェルデ…うん、いい目だ。」


 試験監督はそう呟いた。


「?」


「君には特別だよ?」


「な、何がです?」


「これだよ。」


 そう言って解き放ったのは、先のようなゴーストではないもっとおぞましいもの。

 他の受験生は唖然とし、僕でさえどこまで通じるか解らないそんなもの。

 黒くどろどろとした粘液で形成された人形…。


「こ、これ…。」


「うん、いざとなれば僕が出よう。」


 駄目だ…それでは試験失格…僕がやらなきゃ。


「…行きます。」


「うん。始め!」


 僕とそいつはゆっくり、お互いに歩みを進める。こいつは生半可なものでは祓えない。

 近づけば近づくほど解る。こいつは1体出はない。数百、数千の怨み辛みを束ねたものだということが。

 呼吸を落ち着けろ。自分を信じろ。そう頭のなかで繰り返し、歩みを進める。


 ついに、それと相対する。ここまで近くによっても襲わない。

 やることはいつもと同じだ。それの肩に手を置く。

 それと同時に理解した。こいつの適切な祓い方を。そうして僕は唱えた。


「…眠れ。」


 その言葉で、泥のような粘液は固まる。そうしてボロボロとその体を維持することが出来ず崩れ、風に飛ばされるように彼のもとへ還っていく。


「やった…?」


 直後、どっと疲れが押し寄せる。心臓は今までないくらいバクバクと高鳴り、息は一瞬にして上がった。


「…マジか。」


 試験監督がそう言ったのを僕は聞き逃さなかった。この人、端から僕が祓えるわけないと、そう思っていたようだ。それはそれでどうなんだ?ひどくはないか?など思うところはあるが、そんなことを言葉に出す元気なんて無かった。


―――――――――――――――

――――――――――

―――――


 とかく、僕は除霊には成功した。魔術の筆記試験もそこそこ出来た筈だ。あとは合格していることを祈るばかりである。


 合格発表の日。また僕はこの地に来ていた。016…その番号は、確かにその掲示板に張り出されていたのだった。

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