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第1話 若き死霊術師

 小さい頃から、陰鬱な雰囲気を漂わせ友達だって誰一人できなかった。それは前世も今世も同じことだ。僕の周りには、生きた人間なんてやって来なかった。

 死霊術と言うものを知ったのは、この世界に来て7回目の春を迎えた去年のこと。魔力の適応検査をした際に、僕の周りにはあり得ない数のゴーストが漂って居たと話に聞く。


 そう言えば前世、僕が死んだ原因もよく解らなかった。高校に通うため、電車を待っていたあの日。急に誰かに背中を押された。とっさに振り返っても誰の姿も見えず、そのまま電車に轢かれた。どうにも、僕は前世からそう言うものに好かれるような素質があったらしい。


 さて、そう言うわけで僕は現在死霊術について勉強中である。そうは言っても、僕の位は平民。それらしい資料を見つけるのにも苦戦し見つけたとしてもそこから先は独学だ。それに、両親は僕のことを避けている。どうにも得体の知れない化物と思われているようである。


 そう言うわけで、現在僕は近所の広場で死霊術を扱う練習をしている。


「なるほどねぇ…君たちって今は僕にしか見えてないんだ。」


 自身の霊力で作った檻の中に捉えた死霊たちを前にそう言う。

 案外、僕は簡単に霊力を扱うことが出来た。簡単な捕縛くらいなら出来る。


 1年、死霊術とふれあい解ったことがある。僕は特段、死霊に見いられやすいと言うことだ。実に迷惑である。体は重くなるし、肩は痛いし、本当にどうかと思う。

 そうしてもう1つ、霊力は使いすぎると少し酔う。


 僕もまだまだ駆け出しだ。きちんとこの死霊術と、己の体質と向き合わなければならない。だから将来的にはレヴィアー魔術学園に通い専門的なことを学びたいのだが………。


「平民には難しいかもなぁ…。」


 なんて思いながら、その檻を潰す。それだけで死霊たちは浄化され朽ちていった。

 これだけで浄化できるならいいのだ。だけど、場合によってはこれ以上の存在もいるかもしれない。それこそ、僕を殺した奴のような。その時、きちんと対抗しないとまた僕は死ぬ。

 そんなのは嫌だ。僕だって死にたくはない。ちょっと陰気なだけだ。


「ねえ、君。」


 そんな声が聞こえた。ふと見上げてみれば、そこにいたのは僕と同じくらいの年の少女だった。ピンクのドレスに長い金髪。花の髪止めが印象的だった。

 目を見張る。


「さっき誰かに話しかけてたけど何してたの?」


「…あ。」


 そうか。この人は見えない人なんだ。ならたぶん、僕の力は怖いと感じるか、ただの変人だと思われるだろう。だけど僕は、そうするしかなかった。目があってしまったのだから。

 ポンと彼女の肩に手を添える。きょとんとした表情を浮かべる彼女の後ろを見ていた。

 黒い影。よく見ると大きく口を開けた一つ目の異形であることが解った。

 一呼吸の後言葉を放つ。


「消えろ。」


 その言葉で、そいつは地に引きずり込まれるように消えていった。これが今の僕の対処法だ。これしかないのが本当に辛い。これのせいで一向に友達が出来ないのだから。でも、誰かが死ぬよりマシだろう。


「…え?」


「ごめん。怖かったよね。僕はもういくよ。」


 唖然とする彼女を尻目に立ち去ろうとしたときだった。


「待って!」


 袖をつかみ、彼女は僕を引き留めた。


「君、さっきなにしたの!?急に体がブワァーって軽くなったの!」


 目を輝かせ、彼女はそう言った。予想外の反応に僕はうまく言葉を返せない。ああ、コミュ障だななんて考えつつ言葉を整理する。


「え、えっと、僕、実は死霊術がちょっと使えて…君に憑いてたのを…追い払った…。」


「死霊術!?知ってるよ!!すっごい難しいんでしょ?君って本当に凄いんだね!!」


「まあ、難しいっていうよりか…出来る人が限られるっていうか...。」


 初めての感覚だった。胸が高揚した。ちょっと体が熱い。緊張しているんだと即座に解った。この胸の痛みは霊力を使ったせいかこの高鳴りのせいか。

 それでもはっきりと楽しかったと言える。


「そうだ!お礼しなきゃ。」


 彼女はそう言うと、胸の前で手を合わせた。するとそこから光が放たれ…僕はそれに見入っていた。


「綺麗…。」


 それだけが口からこぼれた。


「これだけじゃないよ?」


「え?」


 やがて光は弾け、綺麗なガラス細工が完成しているのだと気がついた。


「こ、これは…?」


「えへへ、凄いでしょ?私の1番得意な魔法だよ?」


 花を模したガラス細工。小さいながらも形が確かに解る精密さ。


「凄い…。」


「これ。あげる!!」


「え!?」


「今日のお礼だよ?」


「わ、悪いよ!」


「いいの!」


 そう言って強引に僕にそれを手渡した。改めて手のひらの中のそれを見る。綺麗だ。


「あ、ありがとう。」


「ううん!こちらこそありがとう!それじゃあ私、もういかなきゃ…そうだ君、名前は?」


「え、あ、僕の名前?」


「うん!」


「えっと、ヴェルデだよ?」


「ヴェルデ、私はエリスっていうの!!」


「エリス…。」


「またね!ヴェルデ!!」


「…うん!またね!」


 そんな会話を交わした8歳の頃の想い出だ。以降彼女には1度も会っていない。友達が出来たと受かれていたが、よくよく考えれば服装的に彼女は貴族だろう。

 僕みたいな平民と簡単に遊べるわけがないのだ。だけど、解っていても少し寂しかった。初めての友達…そう思っていたが…。


 さて、それから更に7年の月日が経った。僕はこの日まで死霊術を更に学び、魔術も多少扱えるほどに成長した。


 あの頃から僕の目的は変わっていない。レヴィアー魔術学園に通い、力をつける。自分の身くらいは自分で守れるようになる。それに尽きる。

 そうしてあわよくば、もう一度彼女に...エリスに会いたいと、そう思っている。


 今となれば、見慣れた景色である。その道を通う。今日がそのレヴィアー魔術学園の入学試験日である。


「よし…頑張ろう。」


 1人呟いたのだった。

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