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チャンスの男

最後のチャンスの到来だ。そして、そのチャンスとは、もちろんこの俺の最後の抵抗のことだ。俺はやつらと交渉をしてやるのだ。やつらがどうしても俺を生かしておきたいのなら、俺はなんとか生きのびるだろう。しかし、そんなことが万に一つもないのはわかっている。やつらは俺をつかまえたら最後、きっと俺の命を奪ってしまうだろう。だが俺はそれでもかまわない。いやむしろ、そうしてもらいたいのだ! 俺はもうこれ以上生きていたくない。俺はもう、やつらにつかまって生きのびるより、やつらにつかまって死ぬほうを選ぶのだ。


最後のチャンスの到来だ。そして、そのチャンスとは、もちろんこの俺の最後の抵抗のことだ。俺はやつらと交渉をしてやるのだ。やつらがどうしても俺を生かしておきたいのなら、俺はなんとか生きのびるだろう。しかし、そんなことが万に一つもないのはわかっている。やつらは俺をつかまえたら最後、きっと俺の命を奪ってしまうだろう。だが俺はそれでもかまわない。いやむしろ、そうしてもらいたいのだ! 俺はもうこれ以上生きていたくない。俺はもう、やつらにつかまって生きのびるより、やつらにつかまって死ぬほうを選ぶのだ。

しかし、俺がそう決意したからといって、すぐに実行に移すわけにはいかなかった。俺はまず、この最後の抵抗の計画を練らなければならなかった。

この計画は、まず第一に、俺の自由をうばうものから自由でなければならないということから出発した。つまりそれは、俺をつかまえたやつを殺すか、あるいは少なくともそいつの持っている武器なり権力なりを奪い取るかして、それからでなくては俺はやつらのものにはならないということなのだ。

この最後のチャンスを首尾よくのがれることができたら、俺は今までより以上に厳しい試練に耐えて生きのびていかなければならないのだ。だからこのさいは、俺を生かしておいたほうが得策なのだとやつらに思わせるようななにか強力な武器が必要なのである。しかし、武器といっても俺はそういうもののあつかいかたも知らないし、その必要もなかったから今まで手にしたこともないのだ。といってまた、やつらが俺のためになにか適当なものを用意してくれるわけもない。そこで俺は、なにか適当なものをやつら自身の武器の中から無断で借用することにきめた。つまりやつらの武器を奪うのだ。

俺の自由を奪っている人間から自由になるためには、まずそいつの持っている武器を奪い取らなければならないのだから、これはまったく当然のことだ。しかもこの武器なるものは、おそらく俺が今までに見たり聞いたりしたことのあるどんな武器よりもすぱらしいにちがいないのだ! それは俺にとってまさに救いの神となるにちがいないのだ! 俺はその武器をうまく盗み出すことができるだろうか? いや、それさえできればこっちの勝ちだ! 俺はやつらに勝たなければならないのだ。

俺はその武器を盗み出す計画をねって、慎重に日をすごした。そしてある日の晩、計画を実行に移すことにした。

まずやつらの持っている武器の中で、どんな種類と性質のものがあるかということを知らなければならない。しかしこれは造作もないことだ。こういうことはやつらだってまるっきり秘密にはしていないし、それに一人の人間をつかまえておくために必要なものといえば大して多すぎるということはないからだ。俺はまず、俺に食物を供給してくれている店から始めることにした。そして、そこの主人にどんな種類の武器を持っているかを聞き出した。それによると、店に貯蔵してある武器の種類はそうたくさんはないということだ。銃が三丁と弾丸が数万発、それに自動ピストルが二丁あるということだ。そのほかにもいろんな品物があるらしいが、主人の知らないものもあったし、また主人自身もはっきり知らなかったので、それ以上くわしく聞き出すことはできなかった。しかし俺はその種類と数を知っただけでも大いに助かった。

つぎに俺は、その武器のあり場所についてもっと詳しく知る必要がある。しかし主人はそういうことになるとあまり役にたたない。その男の話では、武器は店の地下室にあるが、そこには大きな錠前がついていて、中から錠前などはずせるわけがないというのだった。しかし、これだってそう心配はないかもしれないのだ。もしなにか道具さえあれば錠をはずすことができるかもしれないし、また道具がなくたってなにかほかに方法がないわけではないのだ。

俺はまずその錠前を調べてみることにした。錠前は太い鉄棒の両端に、半円形のかぎが差し渡してあるというもので、さし渡しは三十センチぐらいあった。俺は主人からそのかぎを借りてきて、そのかぎを鍵穴にさしこんでためしてみたが、もちろんそんなことでかぎ穴があくはずはなかったし、またかぎ穴があいていたところで、そうすることは俺の計画にはなかったのだ。

俺はつぎに錠前そのものを調べることにした。しかしこれには少し手間どったが、結局そのかぎのさし込みかたがまちがっていたためで、最初にさしこんだのは半分だったから錠がかかってしまったのだ。俺はもう一度あらためてさし直してみた。今度は成功した。鉄棒に半円形の穴ができたのだ。その穴と穴との間をよく見ると、かぎを半回転させればうまく合いそうにできているのがわかった。だから俺はなんなく錠をはずして武器を取り出すことができるのだ! これが成功する見こみは十分にある。もしやつらが地下室の戸にかんぬきでもかけておいたら、またべつの方法を考えなければならないが、とにかくやつらは俺をつかまえてからというもの、地下室の入口をあけっぱなしにしているので心配ないのだ。

これで俺は武器を手に入れる見込みがじゅうぶんにあることがわかったので、さし当たってはそれにはあまり時間をつぶさなかった。さし当たって俺のしなければならないことはもっとほかにあるからだ。というのは、さし当たってやらなければならないことというのはつまり錠前をはずしてしまうことなのだから……。

俺はまず主人からそのかぎを借りてきて、錠前をはずす準備にとりかかった。これには俺はほとんど手間をとらなかった。というのは、そのかぎは地下室のドアのそばの壁にかけ金があって、そこにぶらさがっていたから、かぎがほしかったらただそこまで行って、それをはずしてくるだけでよかったからだ。

さていよいよ錠前をはずしてしまおうという段になって、俺ははなはだ重大な障害にぶつかってしまった。というのは錠前の一方の側には三十センチぐらいのさし込み口があるし、またもう一方の側には三十センチぐらいの長さの半円形の穴があるのだが、この穴と穴とのあいだにかぎがぶらさがっているのに、さし込み口のほうにはさし込みようがなくて、また半円形の穴のほうにもかぎをぬくことができないのだ。

俺はいったいどっちの側にさし込めばいいのかわからなかったが、そのときふとあることを思いついて急に目の前がひらけたような気になった。というのは俺は錠前をはずすことばかり考えていたので、その逆の方法についてはあまり深く考えてはいなかったのだが、しかしよく考えてみれば錠前をはずしてしまう必要はなく、逆に錠前をかけてしまうだけでいいのだ。錠前をかけることはさし込み口のある側にかぎをさしてやれば、さし込み口と穴とは逆の方向にあるから、さし込みさえすればかぎは自然と穴の内側にかかることになるではないか! そしてもしそのかぎがうまくかかれば錠がかかってしまうが、だめだったらそのときまた考えればいいわけなのだ。俺はさっそく自分の思いつきをためしてみることにした。しかしそれにはまず地下室まで行かなければならないので、しばらく外で待っていなければならなかった。というのはすでに言ったように地下室の入口はあいたままになっていたから、ちょっとでもなかをのぞこうとすれば見られるからだ。だから俺は錠前のかかったかぎを手にして、しばらく待ち、やがてすきを見てさっと地下室へかけ込むと、さし込み口のある側にかぎをかけてしまって、もう一度外へ出た。

これでもう大丈夫だった。錠前は内側から鍵がかっているし、外側からはさし込み口が半円形の穴のほうについているのだから錠前ははずせないし、またこちらからもさし込みようがないので簡単にはあけられないわけだ。俺はしばらくたってもう一度地下室へ行ってみたが、さし込み口も半円形の穴も依然としてかかったままになっていた。

これでもうなんの心配もない。あとはただ待つばかりだ。

俺はそのあいだに武器のあり場所と錠前のあることを確かめた上、主人からさらに二、三の情報を聞き出した。その一つはやつらが俺をつかまえてからもう二週間になるということだ。もう一つはやつらの組織なるものは大したものじゃなくて、ただ俺の持っている金に目をつけているだけだということだ。この最後の点については、やつらは俺が逃げ出さないうちに、俺の持っている金をすっかり巻き上げて、それから俺を殺すかまたは俺をどこかの田舎へでも閉じこめておくかして、ほとぼりのさめるのを待つつもりなのだ。だからやつらは俺をつかまえた日以来、一度も尋問などしていないのだ。

俺はこれらのことを確かめた上で、さらにまたしばらく待ったが、そのあいだに武器のあり場所と錠前のある位置をさらにくわしく調べ上げたうえ、さらに主人からはさし込み口と錠前に関する二、三の新しい知識を得た。

さていよいよ決行の時がきた。俺はまずさし込み口から地下室へはいった。さいわいなことにまだなんの物音もしなかった。しかしそのうちにきっとだれか一人ぐらいはやってくるにちがいない。それにやつらの組織というものがどんなものか知らないが、そうえらいものではないことは確かだ。だからそんなに大勢はやってこないだろうと思うし、それにたとえ大勢やってきたところで恐れることはないのだ! 俺はまず第一に、そばの壁にかけてあった主人の上着を見つけ出してそれを着込んだ。次には、錠前がさし込み口とは逆の方向にかかっているから、さし込み口からさし込み棒をはずして、かわりにその棒を錠前のかぎ穴のほうにさしこんだ。それからいよいよ武器のほうへ手をのばしたが、武器は床にころがしてあるので、それを手に入れるためには身をかがめなければならなかった。

しかし俺はそのときふとあることを思いついて、もう一度地下室の入口まで行ってみた。すると運よくまだだれもきていなかったので、俺はもう一度地下室へもぐりこんでから、さっき錠前をはずしたさし込み口から外をのぞいた。そして上着のポケットからマッチをとり出して、その火をさし込み口ごしに中へさし入れ、半円形の穴の下側をぐるりぐるりとさぐってみたが、どこにもそれらしいものは見あたらなかった。そこで今度はその穴をくぐってなかへはいることにしたが、そのとき俺は上着のすそが床につくといけないと思ってそれをまくりあげた。

それからいよいよ武器のほうへ手をのばしたが、棒がさし込み口のふちよりもちょっと出っ張っているのに気がついたので、それをなんとかしてもっと深くさし込んだ。それからようやく武器をつかむことができたが、そのとき俺はこの武器というやつは思っていたよりもずっと重いものだなと気がついた。しかしもうあとへは引けないのだから、そのままその武器を地下室のなかまで引きずりこんだ。

さて今度はいよいよ錠前をはずしにかかる番だ。俺はまず上着をぬいで主人の椅子の上に置き、ついでその椅子を半円形の穴の下側まで持っていった。それから棒のはしにかぎをさし込んで、それをてこがわりにして力まかせに半円形の穴をさぐったが、なかなかうまくいかないので何度も上着を着なおさなければならなかった。しかしとうとうかぎが見つかったのれを錠前のかぎ穴にはめてまわすと、錠前はいともかんたんにはずれてしまった。そこで俺は武器を手にして地下室からかけ上がり、そのまま主人の部屋へはいった。

やつらは俺といっしょに錠前のついたかぎを地下室に持っていったきり、それを元へもどしもしないでそのままにしていた。だから俺はそのかぎさえあれば錠前をはずして武器を手にすることができ、またさっきと同じように半円形の穴をくぐってなかにはいれるのだ。

俺はまず最初に主人の部屋へ行って、やつらがどんな武器を持っているか調べてみようと思った。というのはもしなにかあった場合の用心のためと、それからもう一つは主人の部屋にどんな種類の武器があるかということをあらかじめ見ておくためだ。

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