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鉄と炎の街  作者: 葉月 優奈
一話: 氷の魔剣士と焔の鎖と
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007

(NICORASIKA‘S EYES)

――コスモポリタン北地区・バー『デオドア』――

わたくしは、コスモポリタンの平和を守る守護神。

『ニコラシカ・ガスター』、ガスター家の元当主だった。

わたくしは、コスモポリタンに生を受け、コスモポリタンで育ち、コスモポリタンで大きくなった騎士。

薄緑の鎧は、ガスター家の騎士の証。


現在コスモポリタンの自警団に働くわたくしの仕事は、コスモポリタンの平和を守ること。

やっていることは、治安の悪い区画の街のパトロール。

巡回をして、不審者を取り締まって追いかける仕事。

だが、私がこの仕事を始めたのは十年前のあの出来事がきっかけだ。ブロンクス家が倒れたあの日から。


夜中一時、わたくしの巡回は終わった。

薄緑の鎧から白いスーツと黄緑のロングスカートに着替えた、わたくしは行きつけの酒場に向かっていた。

コスモポリタンの中で、北区の貧民街にあるあの酒場。

知り合いのマスターと、うまい酒だけがわたくしの心を満たしてくれた。


着いた場所は、バー『デオドア』。

通い慣れた酒場のドアを開けると、いつもの女店主が待ち構えていた。


「いらっしゃい、ニコラシカ」

「カレドニア、今日も来たわ」

「いつもの酒が、あるわよ」

すぐにわたくしは、カウンターにつく。

藍色の長い髪の女マスターカレドニアと、言葉を交わす。

クールで近づきがたい女、カレドニアはそういう人物だ。


彼女は、『デオドア』の看板娘だ。

今のカレドニアには、かわいらしい看板娘の面影が一切無い。

カレドニアが、私の前に出してきたのはピンク色のカクテル。

わたくしは、どちらかというと甘党だ。


「わたくしの好みをご存じで」

「分かるわよ、ニコラシカのことぐらい。十年前からでしょ」

「年取ったわね、お互い」

「そうね」カレドニアとわたくしは、年齢が近い。

だが、それ以上に彼女とは強い絆で結ばれていた。


「『フレアボム計画』……あのとき、あなたはまだ帝国軍だったのでしょう」

「そうね。でもわたくしは、帝国軍人だから『フレアボム計画』を阻んだわけではなくてよ」

「十年前の『フレアボム計画』は失敗に終わった。

ガルムという組織は、コスモポリタンから撤退した」

「そして、帝国軍も撤退した」

「どうだったの、ニコラシカ」

「何がよ?」

「帝国軍が、ガルムと手を組んでいたかどうか?」

「……わたくしは、上層部で無いので分かりませんわ」

わたくしは、元帝国軍だ。

だけど、帝国軍の領主ブロンクス家がガルムと『フレアボム計画』を共謀したことで二つの組織は消滅した。

ブロンクス家が消滅した事で、わたくし達帝国軍は解散を余儀なくされた。

コスモポリタンは、世界で唯一バレンシア帝国の支配下を解除された自由都市になった。


『都市国家コスモポリタン』の誕生で、帝国軍の兵士のほとんどはこの町を出て行った。

わたくしは、コスモポリタン育ちということでこの街に残った。

そして、わたくし達は自警団を作って現在も活動しているのだ。


そんな私の隣には、先客がいた。客は女だ。

このバー『デオドア』は、元々客が余りいない。

貧困街にあるし、見た目も入りにくい店だ。

知る人が知る店として、隠れ家的名店だ。

実はここだけの話、わたくしは自警団では誰にも教えていない。


「見ない客ね……あれ……」

隣にいる客を、わたくしはどこかで見た事のある気がした。

カクテルを飲みながら、急に立ち上がったわたくし。


黒のノースリーブジャケットに白いシャツ、それから鎖。太い鎖を腰に……あっ。

わたくしが顔を覗き込んだ瞬間、相手の女も驚いていた。

赤く長い髪をした女は、わたくしを見るなり身構えた。


「お前は、帝国軍の!」

「あんたは、逃げた女!」

わたくしと女の言葉が、綺麗に重なった。

女も立ち上がって、身構えた。


「出たわね、逃亡犯」指さすわたくし。

「なんで、私が逃亡犯なのよ」

女は膨れた顔で、わたくしを睨む。


「あの、鎖で何をしたの?調査するわよ」

「店主がまがい物を売っていたから、からかったのよ」

「その割には、人を縛って楽しそうにしていたわね」

「何を言っているの」

「あんな卑猥な縛り方をして……」

「意味が分からないわ」

女は、どちらかというと呆れた顔を見せていた。

わたくしは、それでも赤髪の若い女に迫っていた。


「取りあえず、あなたの武器である鎖を押収するわ」

「なんでよ!」

腰に手を伸ばすわたくしを、必死に抵抗した赤髪の女。

わたくしは、それでも赤髪の女から鎖の方に手を伸ばした。

若い女より、わたくしの方が一回り体は大きい。

腕力でわたくしが圧倒できるかと思いきや、若い女も力が強い。

必死に、力で抵抗してきた。


「いいから、渡しなさい!」

「いやよ!」

「渡しなさいって……」

だけど、次の瞬間一人の人間が、拳銃を発砲した。

その拳銃を発砲したのは、カウンター前の女。

黒のワンピースを着たカレドニアが、わたくしと女の間に威嚇射撃をしてきた。


「喧嘩はよそでやりな」

カレドニアは、冷たい目でわたくしと赤髪の女を睨む。

そのまま拳銃の煙を吹くと、わたくしと女は行儀良く座った。


「相変わらず、粗い接客だな」

だが、この酒場にもう一人の人間が入ってきた。

それは金属鎧の男が、姿を見せていた。



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