045
(NICORASIKA‘S EYES)
翌日わたくしたちは、コスモポリタン中央区の広場にいた。
この日、広場ではあるソノラの処刑が行なわれるのだ。
準備が、レックスの冒険者の手で着実に進んでいく。
噴水を背にした広場の中央には、磔台。
昼間でも群衆が集まっていた。数にして千人はいるだろうか。
だが、広場には主役がまだいない。
「ニコラシカ様、いいのですか?」
「ええ、構いませんわ。彼女が死んだら、この街は二度と戻らなくなる。
そんな気がするのですわ」
わたくしが話しているのは、一人の男。
彼は私と同じ、元帝国軍の兵士。
わたくしは、町娘が着るワンピース姿で群衆に紛れていた。
相方の兵士も、一般人に紛れ込んでいた。
それでも、武器はしっかりわたくしは持っていた。
槍を隠し持って、周囲を見回す。
「ニコラシカ様が言う、ソノラと言う人物はそれほどの人物なのですか?」
「ええ、生意気なところがありますけど……彼女は真っ直ぐですから。
あなたこそ、わたくしに付き従ってありがとうございますわ」
「ニコラシカ様一人で、死なせるわけにはいきませんから」
「死ぬつもりはありませんし、それにあの裏切り者を……ぶん殴ってやらないと気が済みませんわ」
わたくしは、憤っていた。
間もなくして、広場に一人の人間が出てきた。
それは、黒い執事服の男だ。
「あの服は……『無敵の服』ロブ・ロイか?」
かつて、帝国領主マイタミ・ブロンクスが着ていた服……カヴァーチャを着ていた。
真っ黒な服には、どんなダメージも受けつけることはないと言われている。
刃も、攻撃魔法も無効化してしまう、魔錬成武具の一つだ。
無敵の服を着ているロブ・ロイが、演説を始めた。
「今日は、素晴らしい日になる。
このコスモポリタンが、世界の二つ目の国になる記念するべき日になるのだ!」
「コスモポリタンが国になる……」
ロブ・ロイの言葉に、群衆がどよめいていた。
だけど、いかにもサクラの冒険者が、次々と大声で叫んだ。
「コスモポリタン国、万歳!」
「我らの国に幸あれ!」
「ロブ・ロイ様が、国を治める王となる!」
その声に煽られて、群衆の中に自然と合唱が始めた。
自分を王に讃える声を聞いて、満足げに手を出して応えるロブ・ロイ。
興奮する群衆を、手を降ろして冷静に導く。その後、ロブ・ロイは、口を開いた。
「しかしその前に、まず我らは十年前の過ちを正さないといけない。
ブロンクス家の生き残り、スプリッツア・ブロンクスの処刑をこれより行なう」
ロブ・ロイの言葉の後に、出てきたのが二人の兵士に取り囲まれた一人の少女。
ソノラ(スプリッツア)が、現れた。
いつも通り黒のジャケットに、黒のスカート姿をしたソノラ。
唯一ないのは、腰に巻かれた鎖だ。
うつむいたまま、ソノラは黙って兵士に連れられた。
落ち着いたソノラは抵抗することも無く、磔台に縛られた。
「さあ、コスモポリタンを滅ぼす悪魔の一族に罰を!」兵士役の男が叫ぶ。
「罰を!」呼応して、口々に叫ぶ群衆達。興奮した群衆が、ソノラに声をかけた。
「悪魔め、消えろ」
「帝国軍はいらない」罵声を浴びせ群衆。
汚い言葉を聞きながら、私は広場の壇上にいる男に視線を送った。
ソノラを掴む兵士の一人が、金属鎧の丸い体の男パラライカだ。
「そろそろいきますわよ」
「ああ」わたくしは槍を抜いた。同時に広場に目がめて突進した。
同時に、周りの自警団の仲間が動き出した。
「な、なんだ?」
「さあ、ここから戦うわよ」
群衆の中から、突然大きな騒ぎが起った。
それは一つじゃない、いくつも起った。
当然、レックスの兵士達が鎮圧に向かった。
その中で、わたくしは広場を目指す。走り出して、前だけを向いていた。
喧噪の中をかき分けてわたくしは、広場の近くに向かっていく。
だけど、そこには一人の人間が姿を見せていた。
「やっぱり来ましたわね」
わたくしの前には、金属鎧で白く丸い盾を持っていた。
顔の形をした異界の口を構えて、わたくしを睨んでいた。
「処刑の邪魔を、お前はするな」
「あなたには、話したいことがありましてよ。あなたの正義は、偽物ですの?」
「本物だ!」
「嘘ですわ!」わたくしは、槍を握って構えた。
盾を構えてパラライカは、わたくしの槍を受け止めた。
「何が正義ですの?あなたは、ソノラを裏切ったのでしょう」
槍で何度も、パラライカを突くわたくし。
だけど、パラライカは冷静だ。わたくしの攻撃を、全てあの大きな盾で受け止めた。
受け止めたが、異界の口の力を使わない。ひたすら防御に専念していた。
「自分は、間違いなく正義を貫いている」
「いいえ、あなたは正義ではありませんわ。
あなたがやっていることは、裏切りですわ」
「裏切っていない、自分は……」
「帝国軍人が、帝国に仇なすレックスに味方をしている時点で裏切りですわ」
「それは違う、帝国は腐敗している」
パラライカは、わたくしの槍を弾き返した。だが、攻撃をしようにも躊躇っていた。
「どうしたのです?攻撃をしないのです?」
「自分は、わからない……」
「そう、ならば教えてあげる。あなたの正義は、何なのかを」
わたくしはパラライカの前で、槍を地面に突き刺した。
そのまま槍を手放して、じっとパラライカを見ていた。




