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(PARARAIKA‘S EYES)
自分は、正義と言いながら信念がない。
自分にとって、正義とは何だろうか。
自分がいた場所は、黒い屋根の一軒家だ。
レンガの壁に木造、ここはコスモポリタン南地区の下流住宅に位置していた。
それでも、自分の家はまだ裕福な方だ。この辺りでは珍しい、二階建ての建物だ。
二階建ての二階に、金属鎧を着た自分がいた。
この家は、自分の家だ。
コスモポリタンで生まれ、コスモポリタンで育った元帝国兵。
それが自分、『パラライカ・トルンガ』。
自分が育ったこの家に、父も母も生きていない。
高齢の両親は、既に他界していた。
三十超えても独身の自分に、残された家族はただ一人。
二階の部屋で、ベッドの上に寝たきりの女が一人。
「戻ったぞ、シャンディ」
「兄さん」
ロングヘアーの茶髪の女は、自分に似つかわしくかわいい顔だ。
顔はやつれていて、全身も痩せ細っていた。病気の影響だ。
ベッドの上にいた自分の十歳ほど離れた妹は、元気なく自分を迎え入れた。
「どうだ、体の調子は?」
「うん、大丈夫です」
「そうか、よかった」
自分はベッドの上の妹、『シャンディ・トルンガ』に声をかけた。
見た目は、かなり美人な妹。美人な母親に似て、本当に可愛いシャンティ。
だけど彼女は、とても重い病気にかかっていた。
シャンディは、もう助からないかもしれない。
医者からも、サジを投げられた。それほど絶望的な状態だった。
そんな過酷な運命の中にあっても、いつもシャンディは自分に微笑んでくれた。
汚い自分に微笑むシャンディは、唯一無二の存在だ。
(だからこそ、絶対に失ってはいけない)
自分は、かわいい妹をじっと見つめた。
「兄さん?」
「必ず、お前を助けるからな。
絶対に、兄ちゃんがお前を助けてやる」
「ありがとう、でも無理しないで」
シャンディは、不安そうな顔を見せてきた。
自分は、大きな手でシャンディの頭を撫でていた。
だけど、シャンディは自分の唯一の家族。僅かな心の変化も、見逃さない。
「兄さん、何か迷っていない?」心配そうな顔を、見せたシャンディ。
「いや、何も迷っていない。自分は、シャンディを救うことだけ」
「分かるよ、私は兄さんのこと」
シャンディは、大きな瞳で自分の事を見つめてきた。
それでも自分は、無理矢理笑って見せた。
「私の事で、無理はしないでね」
「大丈夫だ。兄ちゃんは、凄く頑丈なのを知っているだろ。シャンディ」
「うん」シャンディの笑顔には、いつも癒やされた。
儚くも、かわいい唯一の家族。
絶対に、自分が守ってあげないといけない。
シャンディは弱くて、脆い大事な妹。唯一残されたの家族だ。
それでも、自分は彼女を守らないといけない。
「やっぱり、無理しているでしょ」
「大丈夫だ。自分は何も迷っていないし、全てが終わればシャンディの治療も……」
「嬉しくないな」シャンディは、なぜか悲しそうな顔をしていた。
「兄さんが苦しんでいる、私の事で」
「そんなものはない」
「嘘よ!兄さんは、帝国にいたときはもっとかっこよかったから。
だけど今の兄さんは、怖がっていて私は嫌いだな」
「なんでそんな風に、思うんだ?」
「兄さんから、正義を感じないの」
「シャンディ……」
シャンディは、自分の考えていることがよく分かっていた。
そうだ、今の自分には正義がない。
だけど、シャンディを救うにはレックスの力が必要だ。
レックスとの契約で、レックスがテールレスの遺産を手にすることで、シャンディは助かるのだ。
そう、ロブ・ロイは約束してくれた。
「悪い、今日はこれで出るよ」
「兄さん、兄さんは自分の正義を信じて!
私は兄さんが、苦しんでいる姿を見たくないから」
だけど自分は、シャンディの言葉を返すこと無く部屋を出た。
シャンディが不安そうな顔を見せていることを、背中で感じながら。
ドアを出ると、自分の家には一人の人間が立っていた。
壁にもたれかかって立っていたのは、青いシャツと青いズボンの男。
水色のボブカットの男性は、腕を組んで立っていた。
「妹との会話は、終わったか?」魔剣士スノーボールだ。
「ああ」
「ならば最後の仕事がある、パラライカ」
「分かった」自分は険しい顔で、立ち上がった。




