035
(NICORASIKA‘S EYES)
わたくしがこの『デオドア』に来たら、最近はいつも彼女がいた。
薄暗い酒場でも、人が少なくても、必ず彼女はいた。
赤く長い髪を縛った少女、ソノラだ。
白いスーツを着て、黄緑のロングスカートのわたくしはテーブルに座ろうとしたが……
「あなたと話がしたい」
いきなりソノラが、わたくしを招いてきた。
「なんですの?」
「『通り魔事件』は、まだ受け付けているか?」
「ええ、受け付けていますわ。昨日、わたくしが貼りだした依頼ですから」
「そうか、ならば受けるぞ。詳しい話を聞かせてくれ」
ソノラは、いつもいきなり依頼を受けようとしてきた。
彼女は、落ち着いているようだけどまだ子供だ。未成年だ。
「あなた、簡単に依頼を受けてしまって後悔しますわよ」
「大丈夫だ、私は自分のために受ける」
「あなたの相棒、パラライカを見ましたわよ。
彼はかなり落ち込んでいますわよ、いいのですか?」
「今回は、私一人で受ける」
ソノラは、あくまで強気だ。
だけど、そんな無鉄砲さが余計に気になってしまう。
「あなたの強さは分かっているわ。だけどあなたは……あなたは」
「どうしたの?ニコラシカ」声をかけたのはソノラじゃない。
カウンターにいた藍色の髪のマスター、カレドニアだった。
「似ている……いいかもしれないわね」
「どういう意味?」
「わたくしが追いかける通り魔事件の被害者は、銃で狙撃されているのを知っているかしら?」
「ああ、なんとなく」
「犯人は誰か分からないけど、凶器は魔銃イフリートですわ」
わたくしは、この武器を知っていた。
なぜならば、マスターカレドニアが使っていた武器だから。
カレドニアは、わたくしと同じ『裏七英雄』の一人だ。
わたくし達『裏七英雄』は、ガルムと戦ったことを昔のことのように思い出してしまう。
「知っている」ソノラが、なぜか答えた。
「な、なんでよ?」
「そこに、依頼も出ているし」
ソノラが指さしたのは、『魔銃イフリート奪還依頼』と書かれた貼り紙。
「あっ、これって……マスター」
「そうよ、私が出したの」
カレドニアは言いながら、立っていた私の前に赤ワインを出してきた。
いつもボトルキープをしている赤ワインを、私は手に取っていた。
「カレドニア、どうしてですの?」
「魔銃イフリートが、通り魔に使われていてね。私は、どうしても許せないの」
「それもそうね。あの魔銃は、兎に角危険だから。血に飢えた魔銃」
「血に飢えた魔銃?」ソノラが、不思議な顔で聞いてきた。
「魔銃イフリートは、意志がある。血を常に求めた不思議な魔銃。
あの銃は、人を殺すことだけに意味を見いだす銃」
「なるほど」ソノラは、考え込んだ仕草を見せていた。
「後はアルゴンキンだけど……」
「ちょっと……どこまで話が進んでいるのですの?」
わたくしは、飛躍した話で混乱していた。
だけど、カレドニアは話を続けた。
「アルゴンキンという男が、通り魔事件の犯人だと言うことが分かった。
そこにいるピュリが……あれ」
ソノラの言葉に、ピュリはいなくなっていた。
ソノラの隣のカウンターの席は、いつの間にか空席になっていた。
「いないですわ」
「ニコラシカは、アルゴンキンという冒険者の情報は……ある?」
「アルゴンキン・アロキン。元ガルムの冒険者。
一つだけ聞いた情報だと、アルゴンキンはレックスの勧誘を断ったこと」
「『レックス』じゃないの?」
「ええ。彼は今でも、ガルムの人間だと言い張っているわ。
コスモポリタンというガルムを嫌うこの町で、彼はあえて一匹狼を通しているわ」
「目的は何?」
「女が狙われている、髪の色は赤」
ワインを飲んだわたくしは、ソノラの真っ赤な髪を触っていた。
彼女の髪は赤い、だけど染めているのは女なら分かった。
「あなた、染めているわね?」
「なぜ、分かるの?」
「分かるわよ、わたくしは大人ですわ」
わたくしは、ウィンクをしていた。
ソノラは、思わず小さくなって照れていた。
クールな顔を普段から見せる少女らしくないソノラは、こう見えて意外とかわいいところがあった。
流石に、未成年と言うところね。
「ねえ、受けるんでしょ」
「無論だ、魔銃イフリートをアルゴンキンから奪い取る。
カレドニア、それで構わないな」
「いいわ、あなたが使うのなら」
ソノラの意志は、とにかく固かった。
ソノラは、二つの依頼を同時に受けた。
「でも、わたくしの依頼は既に先客がおりますの」
「先客?」ソノラが聞いてきた。
「そう、明日から二人で受けた方がいいですわよ。
あなたと同じ、未熟な子供同士ですから」
わたくしは、ワインを飲み干してソノラにそのまま絡んでいた。
「酒臭いから、絡むのやめて」
ソノラは、可愛げの無い言葉でわたくしに言い放っていた。




