032
(CAREDONIA‘S EYES)
バー『デオドア』は、北区の貧民街にある酒場だ。
私はかつて、この貧民街でデオドアという男に拾われた。
デオドアは、酒場のマスター。私は、看板娘としてこの酒場で育った。
この薄暗い、木製の酒場は私の家みたいな場所だ。
私を育ててくれた育ての父デオドアは、体を崩して寝たきりだ。
大人になった私は、デオドアの代わりにデオドアが愛した店を守っていく事を決めた。
長い藍色の髪で、常に私はバーカウンターに立つ。
酒の種類は覚えた、料理もデオドアに教わった。デオドアの留守は、私が守る
だが、そんな私は秘密が一つあった。
(なるほど、ニコラシカはこの依頼を出したのね。
で、アオサクラが依頼を受けたのね)
薄暗い店内のバーで、大きな木製の掲示板が置かれていた。
この掲示板は、依頼者が自由に依頼を頼むことができた。
他の酒場は、依頼の度に手数料を頂く所もあるがバー『デオドア』は手数料がない。
マスターの私が認めれば、どんな依頼も掲示板に掲載することができるのだ。
ただし、唯一決まっていることが一つ。依頼の掲載期間だ、最大三日。
このバーは、私一人で回していた。
カウンターで、タバコをふかした私は少し離れた掲示板の依頼を見ていた。
見ていると、カウンターにいる一人の女が声をかけた。
「マスター、いつもの」
「あいよ」あたしの前には、全身金属鎧の男だ。
最近よくここに来る元帝国軍人の男、『パラライカ』だ。
彼の好みは、よく分かっていた。ビールという、麦を発酵させた少し苦い酒だ。
パラライカにビールをジョッキで渡し、大きな体を丸めて酒を飲んだ。
「パラライカ……今日は一人なんだな」
「ああ」彼には相棒がいた。ソノラと言う少女だが、彼女はいない。
「魔術師ギルドに、相棒は向かったようだ」
「へえ、ガルサもロリコンだからな。あの女も、気をつけた方がいいぞ」
「そうなのか」パラライカは、神妙な顔を見せていた。
彼は、前の依頼で自慢の盾が壊れた。
持っていた盾は、魔導具でありそれを壊された。
「なあ、壊したのは……銃弾か?」
「そうだが」
「やはりな、実に最悪だ」
私はあることを思いだして、唇を噛んでいた。
私には一つの心当たりがあって、その心当たりが的中していた。
「何が最悪だ?」
「あの銃弾、元々私が持っていた銃弾だ」
私が持っていたのは、さる知り合いからもらった銃弾だ。
銃弾を見て、私は確信した。
私の話を聞いて、パラライカは目を大きくした。
銃弾は先が尖っていて、普通の銃よりかなり大きい。ライフル銃の銃弾並の大きさだ。
「これって……」
「お前、私の依頼を受けてみないか?」
「どういう意味だ?」
私はそう言いながら、カウンターに隠し置いた一枚の紙を後ろの掲示板に貼りだした。
そこには、こう書いてあった。
《『魔銃イフリート』の奪還依頼》と。
依頼内容を見たパラライカは、驚きがあった。
「それって……」
「やはり、元帝国軍は知っていたか。『魔銃イフリート』の存在を」
「お前が、なんでその名前を知っている?」
「私にか?当たり前の事を聞くな。パラライカ。
イフリートは、私の相棒だからな」
鋭い目をしたまま私は、堂々と言い放った。
それを聞いて、パラライカは右手を顎に当てて考えていた。
「そうか、お前が……フレアボム計画の『裏七英雄』の一人だったのか」
「まあ、そうなるわね。その言い方、余り好きじゃ無いけど」タバコをふかした私。
パラライカは、そんな私を睨んでいた。
「マスター、もしかして魔銃イフリートを奪われたのか?」
「奪われていないし、そもそもあの銃は特別だ。あの銃は生き物のように動いていた。
私がフレアボム計画を企画したザンシア・アレーデスを殺し、魔銃は消えていった。それだけよ」
「ザンシア……お前、ザンシアを殺したのか?」
「そうね、『ザンシア・アレーデス』。スリークローズの一人よ」
スリークローズというのは、世界規模のガルムの中で強い力を持つ三人の人物。
普通の冒険者は勿論、一般人も知る有名人だ。
コスモポリタンの人間ながら、帝国領主マイタミ・ブロンクスよりも権力は上かもしれない。
「ドンドン、恐ろしい名前が出てくるな。マスターよ」
いろんな名前が出てきて、パラライカはおののいていた。
「だけど、今の私は普通のマスターよ。
戦いは引退したし、二度と戦うつもりもない。
だけど、相棒……魔銃イフリートが悪用されているのはなんか嫌なのよ」
「悪い、他を当たってくれ。俺には盾はない」
それでも、パラライカはビールを飲み干して立ち上がった。
そのまま大きな背中を、向けて立ち去っていた。




