031
(KAMIKAZE‘S EYES)
――コスモポリタン西地区・倉庫街――
二日前、ソノラ達が幻術殿のコラーダを突入した。
コラーダは、謎の射撃にあって殺された話を聞かされた。
テコニックの幻術は消滅し、彼女は普通の生活に戻った。
拙者がいたのは、西地区の倉庫街だ。
この日、拙者達はある依頼を受けた。依頼主は、ニコラシカ。
アオサクラの知り合いである彼女の頼みを、断る理由はない。
依頼の内容は、西地区で起っている行方不明事件の捜索だ。
自警団でも探している、探す人物は二十代の若い女性。
行方不明になったのは、コスモポリタン西地区在住の女。
道具屋から帰る途中で女が、いなくなった。
コスモポリタンの夜は、最近は物騒で嫌な噂もあった。
スノーボールの一件で、レックスに目をつけられているが依頼を受けないと生活に困ってしまう。
これでも、拙者は常に戦う侍だ。料理人では断じて無い。
そんな中で拙者は、昼間に西地区の大衆食堂である情報を聞いていた。
情報を頼りに、人気の無いこの倉庫街に来ていた。
ここには、いくつもの倉庫が建ち並ぶ。
どこかの商会のものだろうか、鉄の倉庫がいくつも見えた。
「この時間は、本当に人が少ないな」
「ええ、そうでござる。アオサクラ殿は、成果があったでござるか?」
「他の場所でも、あちこちで行方不明が起っている」
拙者が一緒に歩くのは、水色の着物を着たアオサクラだ。
腰には黒い鞘の刀、朧月光を携えていた。
アオサクラはフレアボム計画を挫いた、『裏七英雄』の一人。
何より同郷東国の出身で、拙者の同士だ。
「通り魔事件も、この町で噂されているでござる」
「情報を整理すると、若い女性が全てターゲットと言うことになるな。
被害者の年齢は、十代から二十代前半」
「アオサクラ殿は……一応守備範囲外でござるか」
「カミカゼ、私は年増だといいたいのか?」
「いえ、申し訳ないでござる」
アオサクラ殿に、拙者は素直に謝った。
何より、雰囲気が怖かったので反射的に謝ってしまった。
「それと武器の接点は、銃」
「カレドニア殿も、銃を持っているようでござるが……」
「怒らせると、私よりカレドニアは怖いぞ」
「肝に銘じておくでござるよ」
拙者は小声で話ながらも、周囲を警戒していた。
そこで見つけたのが、細い路地だ。
「少し先に行くと、商店街か」
奥には、商店街の明かりが見えた。
この時間は、夜十時ぐらいなので酒場ぐらいしか明かりはない。
周りには、人がいない事を確認して細い路地を二人で歩く。
「カミカゼよ」
「どうしたでござる?」
「ソノラのことだけど……」
「スプリッツアだった、と言うことでござるか」
幻術殿から、ソノラと戻ったとき……バーデオドアで拙者達に話した。
ソノラは、スプリッツアだったという話。
彼女の告発は、正直驚いた。全然そんな雰囲気を、感じさせなかったから。
「お前は、疑問に思わなかったか?」
「むしろ、逆でござるよ。
なぜ、ソノラがレックスを皆殺しにすることにこだわっていたのか。
その執念が、どうしてあそこまで強かったのか。
その謎も、ソノラがスプリッツアと同一人物ならば説明がつくでござるよ」
「確かにそうだな。スプリッツアであっても、ソノラでも……目的は変わらない」
アオサクラはそれでも、腑に落ちない顔を見せていた。
「だが、初めから話しても良かったのでは無いか?
それとも、私たちは信用に値しないというのか?」
「それは、分からないでござる」
拙者も、初めてギルドを作るときに話す機会はあったと思っていた。
だけど、ソノラ達は話さなかった。話してくれなかった。
そのことを、アオサクラは気にしていた。
「少し、ブロンクス家の事を調べてみるか」
「ええ、ですが……」
細い路地を先に抜けた拙者は、地面に赤い血を見つけた。
レンガのタイルが、赤く濡れていた。匂いは血だ。
「これって……」
「ああ、間違いない。血の匂いだ。近いぞ」
アオサクラと拙者の顔が、一気に険しくなった。
そして周囲を探すと、倉庫の影に血が続いていた。
二人で倉庫と倉庫の間に来ると、一人の女が倒れていた。
「髪の色が……金髪」
倒れてた女性は、やっぱり金髪の若い女性だ。
呼吸はしていない、死んでいた。
だが、その血は比較的まだ新しい。
すると、大きな音が聞こえていた。
「銃声だ!」
パーンと大きな音が、少し離れたところから聞こえた。
同時にアオサクラが、音の方を指さした。
音が聞こえたのは、倉庫街の遠くの方だ。
「カミカゼ、お前はこの女をニコラシカのいる自警団の詰め所に。
私は銃声の方に、向かうぞ!」
「ですが……」
「任せたぞ!」アオサクラは、凜とした声を残して走り出した。
銃声のある方角に向かい、駆け出すアオサクラには拙者は何も言えない。
迫力ある走りで、アオサクラが闇に消えていった。




