030
(PYURI‘S EYES)
ピュリは、情報屋。知るべき情報は、常に足で稼ぐのがモットーだ。
そんなピュリがいた場所は、酒場『デオドア』。
見た目は子供っぽいし、顔も幼い。
ピンク色の髪だし、背もとても低い。
茶色のジャケットに、茶色のホットパンツはまさに子供だ。
だけどピュリは二十を超えているし、そもそも帝国バレンシアの飲酒出来る年齢は十四から。
法律的に見て、ピュリは何の問題も無いのである。
「相変わらず、ピィピィミルクが好きね」
「大好きだにゃん」マスターのカレドニアも、ピュリの顔なじみ。
「にしても、ピュリ。助けてくれてたのか」
「うん、ソノラちゃんが危なそうだから助けたにゃん」
ピュリの右隣にはソノラ。赤く長い髪を縛った、少女だ。
ピュリの左隣には、パラライカ。金属鎧を着た丸い体の男。
背を丸めるとパラっちは、球体にしか見えない。
「ピュリは私たちを幻術殿から、追いかけたのか?」
「ピュリはね、こう見えても盗賊によく見えるんだにゃん」
「へー、そうなのね」ソノラは、不思議な顔を見せた。
だけど、ピュリの目をなかなか見てくれない。
少し照れているところが、なんだかかわいい。
やはり幻術殿のあのシーンが、彼女でも忘れられないのだろうか。
「それに幻術殿に、ピュリは調べ物があったから仕方ないにゃん」
「やれやれだな、ピュリは」パラライカが、既に呆れ顔だ。
「にしても、二人とも無事で何よりだにゃん」
「あの銃弾は?」
「おそらく、数日前から出ていた事件が影響しているかにゃん」
「事件?」パラライカが、難しい顔をしていた。
「まあ、コスモポリタンは常にきな臭い町だからにゃん。
レックスの支配で、変わってしまったにゃんよ。ソノラちゃん」
「ソノラちゃん」ソノラは、首を捻っていた。
「そうだにゃん、ソノラちゃんの方がかわいいにゃん。
ソノラちゃんより、ピュリの方が多分年上だと思うし。呼び方、ソノラちゃんでいいにゃん?」
「えと……」
「いいんじゃないか?」
普段は無骨なパラライカは、笑うのを誤魔化していた。
ソノラが冷たい目で、パラライカを睨んでいた。
「お前なっ!」
「自分も呼んでいいか?」
「絶対にダメ!」ソノラは険しい目で、パラライカを睨んでいた。
「それより、事件というのは気になるが……」
「一ヶ月ぐらい前から起きている通り魔事件だにゃん」
「そういえば、そんなことを少し前に言っていたな。
詳しい事件を、自分にも教えて欲しい」
「パラっちも、気になるにゃん?いいにゃんよ。
通り魔事件、事件はいつも夜に行なわれるにゃん。
持っている武器は銃で、殺される人間は女性のみだにゃん。
しかも、狙われるのが若い女だけだにゃん」
「今回は、ソノラが狙われた……ということかな」
「あるいは、ピュリだにゃん」
ピュリは、かわいくポーズを取ってアピールした。これでもまだ、花の二十代。
ソノラは、興味なさそうに聞いていた。
「それは、レックスなのか?」
「さあ、調査中だにゃん。だけど……関係ないとも思えないにゃん。
ピュリに、調べて欲しいのかにゃん?」
「レックスで無ければ、どうでもいい」ソノラは素っ気ない。
相変わらず、ソノラはクールだ。
それでも、ピュリには彼女を見て電撃が走った気がした。
ソノラは、まるでピュリの悩みを解決してくれそうなそんな気がしたから。
「ねえ、ソノラ」
「何よ?」
「ピュリのママを、知らない?」
「知らないわよ?」
「また、その質問か。相変わらずだな、ピュリは」パラライカが、口を挟んだ。
それでも、ピュリにとって大事な質問だ。
「だいたい、ピュリは母親を探しているって……どんな母親なんだ?
それを言わないと、誰も分からないだろ。見た目とか、出身地とか……」
「黒髪で、胸が大きい、お尻も大きいだっけ?」
ここで口を挟むのが、マスターのカレドニアだ。
昔からカレドニアには何度も、ピュリが質問していた。
付き合いも長いから、フォローも絶妙だ。
「そう、ピュリのママはそんな感じ」
「まとめるとスタイルが、いい女ってことか?」
「一番大事な事を忘れているわよ、ピュリ」
「そう、ピュリのママは……暗殺格闘技を使うの」
だけど、ソノラもパラライカも首を捻っていた。
二人とも知らないと言う空気を、漂わせていた。
「うん、仕方ないよね。まあ、いいよ」
「ごめん」ソノラが、謝っていた。
「いいよ、気にしないで。ピュリは大人だから大丈夫……だにゃん」
最後は無理矢理、ピュリは笑って見せた。
無邪気な笑顔は、ピュリの一番得意分野だったから。
それでも、一人の男は元気が無かった。
そう、異界の口が壊れたパラライカだ。
相棒であるソノラが、すぐに寄り添って声をかけた。
「パラライカ、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。少しトイレに行ってくる」
パラライカは立ち上がり、元気なくバーのトイレに向かって出て行った。
カレドニアも、タバコをふかしながらカウンターにいる別の客の接客をしていた。
ピュリは、ソノラと二人っきりだ。
「ねえ、ソノラ」
「何?」
「パラライカを、信じているの?」
「私の相棒だ」
「そう……ちょっと小耳に挟んだのだけど……パラライカの事」
ピュリは、話すかどうかを一瞬悩んだ。
だけどソノラには、この話をどうしてもしないといけないと思えた。
ソノラには、何かを変える力があると……直感で感じた。
カレドニアと同じ、内に秘めたオーラが彼女からも感じられた。
「パラライカはね……」
ピュリの言葉に、ソノラの顔が曇っていたのがはっきり見えた。




