028
寝室は、大きな男が倒れていた。
広い部屋に、キングサイズのベッド一つしか無い。
このコラーダは、幻術を使うが直接的な戦闘能力は無いようだ。
見た目は寝たきり老人で、体がひ弱に見えた。
その証拠に、コラーダの体がベッドの上から離れられない。
私の鎖が、そのままコラーダの体を縛り上げた。
「こんなことをしても、無駄だぞ。スプリッツアの情報は、既にロブ・ロイ様に届いている」
「そのロブ・ロイはどこ?」
私にとって、一番倒さないといけない相手がロブ・ロイだ。
レックスの祖であるロブ・ロイ。
パパを私の目の前で殺し、ママも処刑し……私も殺そうとした仇だ。
十年前、パラライカに助けられてコスモポリタンを逃げるように出て行った。
十年間は旅をして、己を鍛えた。レックスの脅威に怯えながら。
レックスは、私を追いかけていたのが風の噂で聞こえてきた。
だから、十年間コスモポリタンから離れて旅をしていた。
パラライカと二人、修行と復讐に明け暮れた度。
全ての準備を終えた私は、十年ぶりに戻ってきた。
「ロブ・ロイ様は、スプリッツアになら会ってくれよう。
お前の武器……チェインブレイズを持って行けば、簡単に会ってくれる」
「なんで、このチェインブレイズを求める?」
「チェインブレイズが、魔錬成武具だからだ」
「そこまで……知っていたのね」
縛られたコラーダを、私はじっと見ていた。
パラライカも近くで、私とコラーダの会話を聞いていた。
「ねえ、魔錬成武具にどんな秘密があるの?
レックスは、何かを掴んでいるハズだけど」
「さあ、分からないです」
「嘘をつけ、お前達が何かを知っている」
「本当に知らない。知っていても、あの男……ロブ・ロイ様は絶対に教えてくれない」
鎖をきつく縛った私が、コラーダは苦しんだ顔を見せていた。
だけど私は、怪しく笑っていた。
「その辺で、よさないか」
「いいや、コイツは何かまだ情報を握っている」
「そうは見えんが?」
「なぜ、私がここに来たことをお前達は知っていたかだ」
一番の疑問を、私は口に出した。
私がここに来たという情報、偽名や髪まで染めたのに関わらず言い当てた情報網。
敵の情報力が、私の想像を上回っていた。そのことは、驚異でしか無い。
私は苦しむコラーダに対し、冷たい眼差しを向けた。
高笑いの中でも、頭はしっかり動いていた。
レックスが私の持っている魔錬成武具を、狙っていた。
私が来たことで、レックスのある事が動いているのが分かった。
だとしたら、レックスは何をしようとしているのだろうか。まだ、奴らの裏が見えない。
裏が見えれば、ロブ・ロイに近づく一番の近道だ。
「答えろ!」
「わしは何も知らぬ。ロブ・ロイの考えが、どこにあるのか」
「ならばこの鎖で……」
「ダメにゃん!」すると、いきなり私の背後から声が聞こえた。
それはかわいらしい声だけど、大きな声だ。
鎖を持ったまま私は、背後を見た。
背後から、一人の女の子が姿を見せた。
茶色のジャケットに、茶色のホットパンツの背の低い女の子。
「ピュリっ!」叫んだのはパラライカ。
「しゃがめ!」ピュリと言われた女の子は、私たちに言ってきた。
言われた私にピュリという女の子が、後ろから突進してきた。
突進された私は、小さい女の子の圧に押された。
押された私は、胸からそのまま倒れた。
同時に鎖を手放して、コラーダの束縛を解除した。
「自分が護る」パラライカは、私の背中に立った。
立った瞬間、盾を構えた。同時にこの屋敷の窓から見えてきた、赤い光線。
その光線が、部屋に全て向けられていた。
向けられた光線の後、ガラスがバリバリッと割れ始めた。
ガラスを突き破って、無数の銃弾がこの部屋に降り注いでいた。
五発、いや十発……数はもっと多い。
二十、三十、四十それでも、盾を構えたパラライカは私と女の子を護っていた。
数え切れない銃弾が部屋に撃ち込まれて、後ろのベッドはボロボロだ。
何よりパジャマ姿の老人コラーダは、全身穴だらけだ。
それでも、私たちは助かった。
パラライカの行動と、ピュリという女の子の勇敢な行動によって。
私の上には、ピュリという女の子がのしかかっていた。
「大丈夫?」
「う、うん……」
彼女の積極的な行動に、私は不思議な感覚がした。
何この子……めちゃくちゃかわいい。
私よりもさらに小さな女の子が、体を起こした。
だけど、いきなりの不意打ちによる代価は大きかった。
私を庇ってくれたパラライカは、呼吸を乱していた。
パラライカが持っていた盾は、小さくなっていた。
盾のほとんどが壊れて、顔の原型はほとんど無くなっていたのだから。




