027
光の先には、私は洋館の廊下に戻ってきた。
ここは、幻術殿の廊下だ。まだ幻術の中なのか、ランタンの炎は赤い。
魔力の感知は、まだ途切れていない。
静まりかえった廊下が、右と左に続いていた。
目の前のドアは開いたときに、小さな部屋が見えた。
そこは、書庫だった。
いくつもの本が並ぶ狭い書庫、狭い部屋に六台の本棚が見えた。
その中で、一冊の本だけが黒く光っていた。
「これが、幻術の『物』か?」
「ああ」近づいて私が見てみると、ハードカバーの本に闇が纏っていた。
私はその本を、チェインブレイズで器用に掴む。
掴んだ瞬間、炎が巻き上がって本を燃やしていた。
本が燃えると、纏っていた闇も消滅していた。
「これで幻術を映し出す『物』を、解除できた訳か」
「そうだな。それにしても助かったぞ。パラライカ」
私の後ろには、パラライカがいた。
私は幻術から解放された。パラライカが背負う、真っ白な大きい盾だ。
顔が掘られた大きな円形の盾は、『異界の口』とパラライカは呼んでいた。
「ああ、助かった。やはり凄いな、その盾は」
「デビルダムマウスは、どんな物も吸い込む。
吸い込んだのは、コラーダの配置した館全体に張られた魔力だ」
「まだ、あの本には魔力を残っていたぞ」
「完全に封じ込めることは、出来なかった。
だが、幻術は初めて見た。ソノラは、どんな幻術を見ていた?」
「私か……別にいいだろ」私はそっぽを向いた。
「その割には、泣き出しそうな顔をしていたぞ」
「そんな顔、していない!」私はすっかり、冷静に戻っていた。
敵がいなくなって、私の感情はいつも通り戻っていた。
そのまま、ランタンをじっと見ていた。
「まだ、赤い」
私の手には、幻覚の時に無かったランタンをいつの間にか持っていた。
再び廊下を私とパラライカが、歩いていた。
廊下を歩いていると、少し先にまたドアが見えた。
近づくにつれて、炎が青……いや紫に変わっていく。
「ここにいるな」
「そうだな、さっきみたいに敵の罠があるかもしれぬ」
「分かっている」
ドアを注意深く見たが、私は罠があるかは分からない。
そのまま私はドアの前で、鎖を振り回して壊した。
壊した瞬間に、さっきよりも広い部屋が見えた。
そこには大きなキングサイズのベッドが、中央に置かれていた。
ベッドの中には、一人の頬が痩せこけた男が寄り添っていた。
顔はしわしわの老人が、ベッドで横になったまま顔をこちらに向けてきた。
「侵入者が来たか」
「ギルド『サラマンドル』のソノラだ。『コラーダ・ビニャロ』は、お前か?」
「そうだ」体を起こして、ベッドの上にいた老けた顔の男。
短くはない白髪の老人、頬には魔方陣が描かれていた。
着ている服はパジャマだ、水色のパジャマを着て体を起こしていた。
それと同時に私は、口元をにやりと見せていた。
直感で感じた、コイツはレックスの幹部だ。
「よかった、会いたかったよ」
「だとしたら?」
「死ね」問答無用で、私は鎖を投げつけた。
だけどこの部屋には、もう二人の人間がいた。
鉄仮面をつけた背の高い剣士と、中年の冒険者風の男だ。
鉄仮面の男は赤い革鎧を着ていた男が身構え、冒険者風の男は私に斬りかかった。
中年の男に、私の鎖が顔に命中した。
「ぐはっ」断末魔をあげて、倒れた。
顔には真っ赤な血を流し、顔の形が凹んでいた。
もう一人の鉄仮面の男は、老人の男の前に割って入った。
剣を抜いた鉄仮面の男が、パジャマ姿の老人を庇う。
だが、冒険者風の男に当たった鎖がさらに振り替えして鉄仮面の男に向いて伸びていく。
加速度がついて伸びていく私の鎖は、そのまま男の頭に強く命中。
鉄の仮面が割れると、中から茶髪の男の顔が出てきた。
しかし、鎖の一撃が額に当たり血を流していた。
「も、申し訳……ありません。コラーダ……様」
背の高い鉄仮面男は、そのまま仰向けに倒れた。
巨体が沈んで、鎖の勢いが弱まった。
あっという間に、二つの死体ができあがった。
私は、鎖をじっと握ってコラーダに向き合う。
「やはり強いな」
「答えろ、コラーダ。『ロブ・ロイ』は、どこにいる?」
「チェインブレイズか、なるほど『ロブ・ロイ』が気にするわけだ。
お前……スプリッツアだな」
「そうよ。あなたは、私の幻術を覗いたわね」私は、強く言い放った。
怪しく笑っている私だけど、鎖はしっかり握られていた。
それを大きな体で制したのは、パラライカだ。
興奮状態の私は、それでも頭は回っていた。簡単に、コラーダを殺すつもりはない。
レックスの仲間は皆殺しにする、それは私にとって変わらない。
だが、その前にやるべき事があるからだ。
「スプリッツアには、魔錬成武具を盗んだ容疑がかかっている」
コラーダは、静かに言い放っていた。
「言いたいことは、それだけ?」
それでも私は、コラーダの方に向けて鎖を投げつけていた。




