020
(SONORA‘S EYES)
――コスモポリタン西地区・魔術師ギルド――
コスモポリタンの西地区の商店街の一角に、地下に下る階段があった。
私はアオサクラに導かれて、カミカゼとテコニックの四人で向かった階段の地下。
ちなみに、ニコラシカは自警団の仕事があるのでこの場には来ていない。
地下を進むと、焦げ臭い匂いが漂ってきた。
焦げ臭い地下の中で、私たちを出迎えたのは白い着ぐるみだ。
「やあやあ、初めまして」
「ピィピィか」それはこの地域に住み着く、妖精のような生き物。
兎のように白い肌で耳が長い、この近辺に染みつく愛玩動物ピィピィ。
だけどペットそのものでは無く、これはもっと大きな着ぐるみだった。
「喋る大きなピィピィですね、すごい!」テコニックは驚いていた。
「着ぐるみだ」
ピィピィを見た事があって、私もよく知っていた。
着ぐるみピィピィは、背中をいきなり向けてきた。
「でもね、中身が無いんだよ」
後ろのチャックが、勝手に開いた。
開いた瞬間、着ぐるみに入っているはずの人間はいなかった。
「あれ?いない」
「ボクはね、着ぐるみのようで着ぐるみじゃ無いんだ。
まあ、魔法の影響で着ぐるみに魂が転移しただけさっ。
紹介がまだだったね。ボクは当ギルド『ソーサリー』の管理者『ガルサ・モスキーソン』」
白い着ぐるみの手を、私とカミカゼ出してきた。
カミカゼも、苦笑いをしていた。
「アオサクラ様、これは?」
「ガルサ、コスモポリタン一魔術に詳しい人間だ」
「そ、そうですか?」
「さあさあ、ボクと握手」
ガルサの申し出に戸惑うカミカゼと対照的に、私は手を握った。
なんだ、一瞬私の中を黒い目が覗いてきたような感覚に陥っていた。
「お前は……」
「気づくんだね、魔術に。
大丈夫。ボクは臆病だから敵意が無いかを、確認しただけだよ。
ボクは、敵にみすみす情報を渡すつもりは無いからね」
ガルサの真っ白いピィピィの顔は、笑ったままだ。
着ぐるみなので、顔の表情は一切変わらない。それだけに厄介な相手だった。
カミカゼも、握手して一瞬表情が固まっていた。
「さて、アオサクラがここに来たって事は、何かボクに調べて欲しいのか?」
「ええ、幻術士『コラーダ・ビニャロ』」について聞きたい。
ガルサ、お前は幻術士を知っているだろ」
「確かにいたよ、このギルドに」
「そうか、幻術の解き方について聞きたいですわ。この子だけど」
アオサクラの隣には、テコニックがいた。
やつれた顔のテコニックに触れたガルサは、何かを感じてすぐに離れた。
「幻術が、しっかりかかっているね。
一体、どんな幻術なの?君の見えているモノを、教えて」
「二十四時間以内に、スプリッツアを探す」
「またまた、凄い条件だね。
十年前にブロンクス家を逃げた領主の娘……だっけ?」
「知っているのか?」
「一応、ボクはこれでもコスモポリタンに長いこと住んでいるから」
ガルサは、頭をかいていた。
「しかし、『レックス』がスプリッツアを探しているのは本当みたいだね」
「どういう意味?」
「逃げていたスプリッツアが、コスモポリタンに戻ってきた。
レックス幹部が、そう噂していたし。
スプリッツアを捕まえたら、レックス内の地位が上がるから……レックスの人間が血眼になって探しているよ」
「そうですか、でもいるのでしょうか?」
「さあね、どこからそんな情報が出たのかも分からないけど。
何らかの証拠があるのか、あるいはただの無理難題を押しつけて……君を殺そうとしていうるのか」
ガルサは、テコニックを指さしていた。
テコニックは、青ざめた顔でガルサを見ていた。
「幻術……スプリッツアが見つからなかったら?」
「死ぬんじゃない?いや、違うな。
幻術によって、君が命を絶つ事になる思うよ」
ガルサは適当に、言っていた。
テコニックが震えて、それでもガルサに聞いてきた。
「教えてください。どうしたら解けるのですか?」
「簡単なこと。術者をかけたヤツに、頼むしか無いね。解いてくださいって」
「コラーダはどこにいる?」
「『幻術殿』、コラーダはそこにいる。
まあコラーダが幻術の解除を、素直に応じると思えないけど。
人にかけられている魔法だからね、物にかけられている魔法と解除方法は異なるけど」
「他に方法は?」
「呪い系の幻術は、術者を亡き者にする。
つまりコラーダを、殺せばいい」
ガルサが、首を跳ねる仕草を見せた。
どちらにせよ、コラーダに接触することが条件だ。
「それよりも、コラーダのいる『幻術殿』にはどこだ?」私は口に出した。
「幻術は、相手の事を惑わすことに長けた魔法だ。
当然、幻術殿も普通の入り口じゃない」
「だろうね」
私は、納得していた。
ガルサは、ペタペタと足を動かしながら私に近づく。
「お前……レックスが嫌いか?」
「ああ、皆殺しにする」
「そうか、ギラギラした目をしているな。いい目だね。うん」
だけど、ガルサは私の腰にある鎖に顔を向けていた。
「ふむ、なるほど」
「なんだ?」
「いや、何でも無いよ。ただ……少し屈んで」
そういいながら、私に屈むように言ってきた。
屈んだ私から、ガルサが耳打ちしてきた。
「後で二人きりで話がしたい、君が一番欲しい情報をボクは持っているから」
ガルサがそう言い、私から離れていった。
離れたガルサは、ピィピィの細めた目で私を見ていた。




