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鉄と炎の街  作者: 葉月 優奈
二話:新たな雄志と幻術士と
17/55

017

(KAMIKAZE‘S EYES)

拙者は、バー『デオドア』に戻ってきた。

貧民街の一角にあるこの酒場は、相変わらず薄暗い。

あれから、二日が過ぎていた。客もまばらなこのバーに、拙者『カミカゼ』はここにいた。

いつも通り白の胴着で、バーの厨房から料理を作っていた。


それは、ある二人をもてなすためだ。

拙者はテーブルの一角にいて、感謝を伝えていた。


「助かったぞ、ありがとう」

白い胴着を着ていた拙者が、ちょんまげの頭を深々と下げた。

「そうか」テーブルを挟んで、向き合うのは二人組。


一人は、『ソノラ・ノクターム』と言う少女。

赤毛の女で、腰に鎖を巻きつけた十代の女だ。

黒いジャケットに、黒いスカートと黒いブーツ、黒づくしの衣装だ。


もう一人は、丸々と太った金属鎧の男。

背中に顔のような大きな盾を背負った、中年の男。

ソノラの相棒で、『パラライカ・トルンガ』と言う。

二人が座るテーブルには、麻袋。それと拙者が作った料理だ。

無論、これらの料理は拙者の奢りだ。二人に振る舞った。


「しかし、本当にこれだけでいいのか?」

「ああ、金には困っていない」

ソノラは、この街にやってきた旅人と言う話を聞いた。

凄腕の冒険者である彼女たちは、金にはあまり困っていない。

なんだか、旅の冒険者というかは貴族の道楽のような旅に見えてしまう。そんな二人組だった。


「本当に、お前達は強いな」

拙者の隣には、黒く長い髪を縛った女が座っていた。

水色の着物を着た凜とした大和撫子の彼女は、アオサクラ。

拙者達のいた『火之鳥』ギルドの長だった人物。拙者の師匠であり、刀の腕前は一流だ。


「私には、これがある」

ソノラの腰には、太い鎖が巻かれていた。

彼女は、レックス幹部で氷の魔剣士スノーボールと一対一(タイマン)で戦い勝利を収めた。

パラライカも、多くの『レックス』冒険者を一人で相手をしていた。

あの顔のような盾で、強引にレックスの冒険者を蹴散らしていた。


「それは?」

「私のもう一人の相棒だ」

「もう一人の相棒?」

拙者が聞くと、ソノラは腰の鎖を悲しそうな目で見ていた。

何か、ソノラの過去に何か辛いことがあるのだろうか。


「ああ、相棒であり……私の罪だ。

ところで、そちらが『アオサクラ』か?」

「はい、『アオサクラ・セツカ』です。

お助けいただき、ありがとうございました」

拙者の隣にいた、アオサクラが深々と頭を下げた。

腰には、真っ黒な三日月のような『朧月光』も携えていた。


「アオサクラ……あなたは、『フレアボム計画』の『裏七英雄』と言われているな」

「昔の話だ、ガルムの『フレアボム計画』を一緒に阻止したに過ぎない」

「ガルムの『フレアボム計画』。十年前の出来事か」

拙者は、その話をアオサクラから聞かされていた。


ポリタン山でフレアボムを使い、大量のフレイムタイトの採掘をした計画。

だが、それによりポリタン山の火山を誘発してしまう危険性があった。

実行犯の『ガルム』ギルドは、結局ロブ・ロイ率いる『レックス』が救って計画は失敗。


これが、コスモポリタンの表の歴史だ。だけど、これはフェイク。

真実の歴史は、『裏七英雄』が救ったのが本当だ。

その一人が、拙者の師匠『アオサクラ・セツカ』だ。


「確かに、私は十年前にフレアボム計画を阻んだ。

計画が失敗して、コスモポリタンにいた『ガルム』は一気に力を失った。

手を組んでいた帝国軍は、ガルムと手を組んでいたと疑われて一掃された。

でも、あなたはフレアボム計画を阻止しようと戦ったのだから声を上げなかったの?」

「あげられなかった。私たち東国は、少数だから」

「でも、あなたは本物の英雄だろう?」

ソノラは、立っていたアオサクラに声をかけた。


隣で聞いていた拙者も、その話は知っていた。

フレアボム計画を阻止したのは、七人の隠れた英雄。

しかし、手柄を横取りするかのように『レックス』が突如出てきた。

英雄になった『ロブ・ロイ』率いる『レックス』は、偽の名声を得て規模を拡大していった。


「凄く調べているわね、特にあなた」

「まあ、仕事柄な」パラライカが、退屈そうな顔を見せていた。

「『レックス』は嫌い?」

ソノラが、シンプルにアオサクラに聞いてきた。


「ストレートだな。ああ、嫌いだ」

アオサクラは、素直に答えた。

彼女の言葉は、東方ギルド『火之鳥』の総意であり拙者も同じ気持ちだ。


「ならば、私たちと手を組まないか?」

「そうきたか」アオサクラは、落ち着いた顔でソノラを見ていた。

隣の拙者は、アオサクラと対照的に驚いていた。


「アオサクラ様、どうします?」

「『火之鳥』は滅んでしまった。私たちは、レックスに睨まれている。

だが、私たち東国の周りには味方は少ない。

彼らの協力は、私たちにとってデメリットは無い。それにお前達も、普通では無いのだろう」

「無論だ」ソノラは、堂々としていた。

見た目は十代の少女だけど、強い覚悟を感じられた。

目には力があり、堂々としていた。


「私は、コスモポリタンにレックスを皆殺しにきた。

レックスに対し、強い恨みがあって、かつ戦えるモノを探している。

お前らが加入すれば、私たちのギルドは強くなる」

「加入?」拙者が、思わず聞き返した。

堂々としていたソノラは、真っ直ぐ頷いた。


「そう、『サラマンドル』私が作ったギルドの名前だ」

「ギルド、いつの間に」

これには、ソノラと一緒にテーブルを囲むパラライカも驚いていた。


「ああ、昨日申請した。

パラライカ、お前が相変わらず単独行動をしている間にな」

「い、いつの間に……」

「嫌か?」

「まあ、自分もソノラと同じだ。自分は自分の正義を信じるだけ」

パラライカは、はにかんだ顔でソノラに同意していた。

それでも、拙者は驚いていた。


「ギルドなんか作ったら、『レックス』に睨まれるのでは?」

「ならば、むしろこれは都合がいいだろう。

この『サラマンドル』は、レックスに逆らう仲間を集めるギルドだ。

今のコスモポリタンの現状では、レックスの悪口を堂々と言えない現状だ。

そんな街の雰囲気を、お前達も変えたいだろう」

「確かに、それは言えてるな」アオサクラが、笑っていた。

「アオサクラ様、そんなこと言ったらレックスに睨まれて……」

「いいじゃないか、倒すしか無い。私は怒っているんだ」

アオサクラは、怒った顔を見せた。

いつも冷静で、すました顔のアオサクラの怒った顔は珍しい。


「よかろう、カミカゼも入るよな?ギルド」

「む、無論です。拙者も入ります」

こうして、拙者達はサラマンドルに入った。いや入ってしまった。


いいのだろうか、などと思いながらも拙者は苦笑いをしていた。

そんな四人で話をしていると、酒場の入り口が開いた。


「ちょっと、カレドニアはいるかしら?」

そこにいたのは、薄緑の鎧を着た女と……もう一人若い女が一緒に入ってきた。



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