015
私が入った部屋には、保護対象がいた。
アオサクラは、『火之鳥』の創生者で、ニコラシカの知り合い。
カミカゼとも同じ『火之鳥』のギルドメンバーだが、パラライカの事は知らない。
私は水色の着物を着ていたアオサクラと、一緒に一階に戻っていた。
この家は、見た目は普通の一軒家。リビングに来ると、既に戦いは決していた。
一階は中央にある大きなランタンが、中央に明るく照らしていた。
リビングの周りには、倒れた三人。
刀で切られた冒険者風の男が三人、倒れていた。
「アオサクラ殿」
「カミカゼ、無事か」
私と一緒にいたアオサクラに、白い胴着のカミカゼが抱きついた。
そのまま、二人は無事を確かめ合う。
私は、相棒パラライカのそばで一緒に戦った二人を見ていた。
「戦いは、終わったか?」
「ああ、カミカゼという男。なかなか強かったぞ」
「そうか」私は、周囲を見回した。
近辺に、人の気配はない。倒れている三人は、いずれも死んでいた。
「わたくしをお忘れですか?」ニコラシカが、鼻息荒く仁王立ち。
だけど、私は面倒な女に関わらないようにとあえて無視をした。
無視すると、すぐに不満そうな顔で絡むニコラシカ。
「ちょっと、なんで無視するですの?」
「お前は、無視しても絡んでくるだろ」
「当たり前ですわ。子供が……鎖を使って窓を蹴り破って……そういえばスノーボールは?」
「倒した」私は素っ気なく言う。
だけど、ニコラシカは周囲を見回した。
「倒したって……」
「逃げられたけど、奴は倒した」
「え、あのスノーボールですよ。『レックス』幹部で魔剣士の……」
「上にいたから、倒した。パラライカよ」
「なんだ?」私は、パラライカの方を向いた。
「よくここの詰め所の人が、少ないのが分かったな」
「自分に任せろ!」
「相変わらずお前は、秘密が多いな」
「長く生きていると、そういう事もある。年寄りの忠告は、ちゃんと聞くモノだ」
パラライカの言ったとおり、今の時間は人が少ない。
ニコラシカがやいのやいのと騒いでいるけど、アオサクラがカミカゼ連れて私たちの前に出てきた。
「助けてくださって、感謝する。ありがとう」
水色の着物を着たアオサクラが、丁寧に頭を下げてきた。
長く縛った黒髪の少女は、少しやつれた顔を見せていた。
「そちらのカミカゼも、いい動きをしている。
木刀ながら、見事な腕前だ。自分は感服したぞ」
「パラライカ殿が、拙者を守ってくださったから戦えましたぞ。感謝するでござる」
「自分がやったのは、お前の守りを固めただけだ」
全身金属鎧のパラライカは、背中に白く大きな盾があった。
だが、武器は何も持っていない。
「唯一の失敗は、スノーボールを殺せなかったことだな」
「そう、スノーボールがいればあの魔剣は死なない。
『魔法具』の一つで、魔力が切れても壊れることがない」
「だったら、もう一度殺し合えると言うことか」
私の心の中にいる興奮した残忍な私は、さぞ喜んでいるだろう。
それでも今の私は、冷静な顔で話を聞いていた。
「でも、お主たちは逃げたほうがいい。
このコスモポリタンにいたら、命の保証は無い」
「なぜだ?」
「レックスは危険な集団だ。今のコスモポリタンのすべてを支配する組織。
そこに歯向かうものは、どんなギルドであれ……生き残れない」
「そう、それでも私は、この街にある目的のために来た」
私はアオサクラの忠告を、否定した。
「ある目的?」
「私達は、レックスを皆殺しに来たのよ。皆殺しにして、レックスを滅ぼす」
右目を右手で隠した私は、はっきり言い放った。
「レックスを、滅ぼすだと?」
アオサクラは、私の話を聞いて驚きが隠せない。
「ええ、私は殺したい人間が一人いるの。そのために、レックスを滅ぼす」
「殺したい人間?」
「『レックス』のギルド長『ロブ・ロイ』だ」
「『ロブ・ロイ』……まさか?」
「本当に、お前はやるつもりか?」
「そうよ、私は『ロブ・ロイ』を殺しに来た。
地獄の底から、舞い戻ってきたのよ」
私が言い放った瞬間、部屋の中央にあったランタンの火がいきなり消えた。
それは、私の心の中みたいに部屋が一気に暗くなっていた。