011
この世界は、百年ほど前から国は一つに統一された。
大国になっていたバレンシア帝国は百年前に、東の諸国を次々と降伏させた。
これにより、世界は一つの国しか存在しなくなった。
バレンシア帝国の皇帝による統治された世界だ。
その名残があるのが、コスモポリタンの東地区にある東国街だ。
カミカゼや『火之鳥』というギルドは、まさに独特の文明が垣間見れた。
翌日の朝、私は東国の町並みを初めて見た。
見えるのは、大きな屋敷。建物が、まず全然違う。
コスモポリタン……帝国の文明は、鉄やレンガの建物がかなり多い。
だけどこの町並みは、木造で白壁だ。瓦という屋根があり、不思議な庭園も見えた。
池がある庭園は珍しくないが、石で作られた明かりは珍しい。
カミカゼに案内されたこの館は、まるで廃墟のようだった。
カミカゼが案内した『火之鳥屋敷』という場所、それがここだった。
「ここが、レックスに襲撃されたのか」
「そうでござる」悔しそうな顔で道案内をしていた、カミカゼ。
黒いジャケットに白いシャツの私は、いつも通り腰に鎖を巻きつけていた。
着ている服は、昨日のデオドアで着ていた衣装と変わらない。
唯一変わったのが、スカートが赤くなっていた。
隣には、ニコラシカ。なぜか全身薄緑の鎧。彼女曰く、仕事着らしい。
帝国軍の証は、無理矢理消されていたが。
「襲われたのは、三日前か」
「ええ」
「屋敷が、所々に水浸しになっているのはどうしてです?」
「氷の魔剣でござる」カミカゼが、ニコラシカの話をじっくり聞いていた。
「スノーボールという魔剣士の仕業か」
びしょびしょに濡れた畳を、しゃがみながら私は見ていた。
ニコラシカは、憤って薄緑のガントレットの手を握った。
「許せませんわ、こんな酷いこと……」
「一つ確認するが、カミカゼ。お前は、バー『デオドア』になぜ働いている?」
「金も無いし、行くアテもない。
拙者達東国の人間は、この街以外に居場所なんかないでござるよ。
だから、デオドアに住み込みで働かせてもらったでござるよ。
それに、拙者は命も狙われているでござるよ」
カミカゼ達は、東国だ。
帝国の支配が無くなったとは言え、コスモポリタンの人間は東国の人間に冷たい。
「狙っているのは、スノーボール?」
私の質問に、カミカゼは大きく頷いた。
「なるほど、この屋敷に残っていたあなたの仲間はどうなったのです?」
「残念ながら……」
「アオサクラは?」
ニコラシカから、聞き慣れない単語が聞こえた。
「アオサクラ様は……敵の手に落ちてしまわれて……」
「そう」ニコラシカは、悲しそうな顔をしていた。
「『アオサクラ』?」私もその単語を口にした。
「ええ、わたくしの知り合い。『火之鳥』のギルドを立ち上げた人間よ。
昔から腐れ縁でね。訳あって、わたくしも彼女の知り合いなの」
「だから、あんたは急に受けるって言ったのね」
私はニコラシカの横取りの理由が、ようやく繋がった。
「だけど、私はあなたに依頼を……」
「ええ、わたくしも一緒に戦いますわよ。
何も知らないあなただけだと、心配ですもの」
「私にはパラライカがいる。心配は、全く無い」
私は即刻、ニコラシカの言葉を否定した。
ニコラシカは、怒った顔で私を見てきた。
「ちょっと、あなたはまだ十代ですわよね?だとしたら、子供ですわ。
子供は、大人のわたくしの言うことを素直に聞くものですわ!」
「大丈夫だ、私はレックスを皆殺しに来た。何も間違いない」
「ちょっとそれ……」私の言葉に、ニコラシカは再び驚いた顔を見せた。
だけど、それを無視して私はカミカゼに話しかけた。
「決行は今日の夜でいいか?相手はスノーボールを倒す……でいいのだろう」
「かまわないでござるが、どこにいるのかお主は分かるのか?」
「知らぬ。お前は分かるのか?」
「それは……わからない」
「ならば、探すところから始めよう。
最も、パラライカがどこまで調べているかだが」
私は、別行動するパラライカのことを口に出していた。
ニコラシカは、それでも眉をひそめた。
「調べる必要はありませんわ。わたくしは、知っておりますもの」
「そうか、どこだ?」
「それはですね……東地区の……アソコですわ」
ニコラシカが、そのあとスノーボールがいる拠点の場所を話し始めた。