1-4この手紙は…
冒険者ギルドを訪れた俺は、ギルドマスターにおっさんからもらった依頼書を渡して答える。
「護衛の依頼の完了報告だ。ほらこれが依頼書だよ。」
陰気な顔をしたギルドマスターが無表情のまま受け取る。
…どうやら先程のニヤリ顔は彼なりの営業スマイルだったようだ。
「…なるほど依頼達成の報告でしたか…すぐに受理します。」
俺は淡々と依頼書を処理していくギルドマスターを見てふと疑問に思った。
…そういえば、普通こういった雑務はギルドマスターではなく受付係がやるのではないだろうか。
「…なあ、あんたギルドマスターなんだろ、なんでこんな雑務をマスターのあんたがやってるんだ?」
ふと気になり、なんとなしに聞いてみると、ギルドマスターは生気の失せた瞳でこちらをじっと見ながら話した。
「実は…私にも原因がよく分からないのですが、スタッフを募集してもほとんど集まらず…その為私と数人のスタッフで回すしかないのです。」
うん、それは多分みんなあんたを怖がってるからだと思うな。建物の外まで陰鬱な雰囲気が滲み出てたし。
…というか数人は来てくれたのか、凄いなそのスタッフ。
「…もう少し給料をあげるべきでしょうか?」
「いやあ、多分それじゃあ解決しないんじゃないかな…」
「え?」
…そんな無表情で小首をかしげるギルドマスターにここにきたもう一つの目的を尋ねてみた。
「ところで人を探してるんだが、ここにカーティスってやつはいるか?」
そう尋ねながら俺は師から手紙が届いた時の事を思い出す。
――――――
その日、我が家に珍しく手紙が届いた。
そもそも自分の居場所を知っている者など数人しかいないし、何より人里離れたここには配達員など来やしない。
それだというのに、その手紙はドアの隙間に挟まっていた。
手紙の差し出し人を見ると、かつての師マーリンの名が書かれていた。
「ん?先生からだ」
なるほど確かにあの先生なら、自分の居場所も知っているし、ここに手紙をよこすことも容易だろう。
しかしそこまでして、伝えたい事とはなんなのだろうか。
手紙に纏わりつくただならぬ気配を見つけた俺は、すぐにその手紙を手に取り読む事にした。
「グリウスよ、息災か?
突然ですまぬが、お主に頼みたい事がある。
レオニダス王国の王都レーベで待つ。
訳あって居場所はあかせぬゆえ、レーベの冒険者ギルドにおるカーティスという男に尋ねるとよい。
詳しくは会ってから話す。
マーリン・ガンダルドアより」
なにやら深刻そうな手紙を読み終えたその時、先程まで手に持っていた手紙が急に虹色に明滅し始めた。
「これは…まずい!」
炎のマナの高まりを感じ、咄嗟に魔力の結界で手紙を覆ったその瞬間。
ボンッ!!
と手紙が爆破した。
「あ、危なかった…」
なんとか爆破を抑える事に成功し、先程はまで手紙のあった場所に目をやる。
そこには爆破したはずの手紙がまだあり、先程まで空白のあった部分にはなにやら新しい文章が浮き上がっていた。
「追記
そうそう書き忘れておったわ!この手紙は読み終わった後爆破するからの!せいぜい気をつけるんじゃぞ〜。」
……
……
「あのジジイ…!」
どうりで手紙に妙な気配が付き纏っていたわけだ…
しかもご丁寧に高度な隠匿魔術を何重にもかけてまで俺にバレないようにしてある。
本気で教え子をおちょくろうとする好々爺のにやけ顔を思い浮かべながら、かつての師マーリンを殴り飛ばす為にレーベへと行く決意をしたのだった。
――――――