1-3ギルドへ
ルルちゃんから部屋の鍵を受け取った俺は、早速部屋に荷物を置いて冒険者ギルドへと向かう事にした。
冒険者ギルドはヴィユールの世界中に支部を持つ大規模ギルドだ、ヴィラント法国に本拠を置く冒険者ギルドには、妖異の退治や古代遺跡の調査などを生業とする冒険者達のほとんどが籍を置いている。
そもそも冒険者の主な収入は妖異を退治した際に採れる魔石だ、この魔石は世界中で使われている魔道具の主燃料となるため、この妖異を倒し魔石を採って売る事で冒険者は生計をたてている。
この魔石の流通を一手に引き受けているのが冒険者ギルドである、元々魔石に関してはヴィユール協定によってヴィラントが全て取り仕切っていたが、各国から独占に対する反発が高まり、民間の機関である冒険者ギルドが魔石の流通を管理する事になったのだ。
その為魔石の買取はほぼ冒険者ギルドでしか出来ず、ほとんどの冒険者がギルドに加入する事となっている。
一応未加入の冒険者でもギルドの認可を受けている商店や施設などで買取はしてもらえるが、手数料や税金などでギルドで売る際の半分程度の稼ぎにしかならないのが実情だ。
♢
「ルルちゃん、冒険者ギルドの場所ってわかる?」
日当たり良好、風通しばっちり、ベッドメイク最高の部屋を一通り満喫して受付へと降りていった俺はルルちゃんに冒険者ギルドの場所を聞いてみた。
「冒険者ギルドだったら南大通りを真っ直ぐいって三区の入口をくぐった先にあるよ。」
よかった、どうやら近場にあるようだ。これだけ大きな街だ下手をしたら半日以上歩き回る事になっていただろう。
「割と近くにあるんだな、歩き回らずにすみそうだ。」
「この街には魔道馬車が走っているから、遠出する時はそれに乗れば大丈夫なんだよ。」
ルルちゃんが誇らしげに説明してくれた。
それにしても珍しい…
「へえ、都市内を魔道馬車が走っているのか?珍しいな。」
「うん、お買い物にいくのにとっても便利なんだよ!」
魔道馬車は馬を使わずに魔石を使って走る馬車の事だ、一見便利そうだが燃費がとてつもなく悪い為すぐに動かなくなる、その為魔道馬車は金持ちの道楽に使われている様な代物なのだ。
しかしこの街ではそれが普通に一般市民の足として使われているという。
「なるほど興味深いな…おそらく壁内に循環している魔力の余剰部分を利用してるのだろうか?確かにそれなら魔力供給をせずとも走り続けることは可能だが…しかしそれだと城壁の周りしか走れない筈だ…」
「え、ええと…お兄ちゃん?」
なにやらルルちゃんが不安そうに話しかけているが、考察に夢中になっている俺の耳には全く届いていなかった。
「いやこれだけの都市だ…その全てを城壁の魔力吸収機構で補うことは難しいはず……という事は壁内以外にも楔石が…そうか!」
少し考えて納得した俺は満足して大声を出していた。
「うわぁ!急にびっくりだよ、どうしたのお兄ちゃん?大丈夫?」
「ん?…ああ、ごめんごめん。少し考え事をしていてね。ありがとうルルちゃんのおかげで興味深い仮説が立てられたよ。」
いかんいかん…どうやらいつもの癖で、考察に夢中になっていたようだ、ルルちゃんが不思議そうな顔でこちらを見ている。
「それよりお兄ちゃん冒険者ギルドに行くんじゃないの?」
…忘れていた。
「…そうだった、ありがとうルルちゃん、それじゃ行ってくるよ。」
ルルちゃんに鍵を預けて俺は冒険者ギルドに向かう事にした。
「はぁい!いってらっしゃい!……不思議なお兄ちゃんだな…」
ルルちゃんの元気な声に見送られながら俺は猫の尻尾亭を後にした、最後に何か聞こえた気がしたが多分気のせいだろう。
♢
冒険者ギルドへと向かい三区に着いた俺は、ギルドを当たりを見回した。
(さてさて、冒険者ギルドはどこかなっと。)
三区の通りには四区よりも立派な造りの建物が並んでいて、商店の店先に並ぶ品も桁がいくつか違うものばかりだ。
商店には見えない建物もあるが看板はでているから、おそらくギルドや大商店などのオフィスだろう。
そんな風に建物を眺めながら少し歩いた俺は、冒険者ギルドの入り口に立っていた。
入り口に立って…………ギルドの中にいる男と窓ガラス越しに見つめ合っていた。
(な、なんだあの男は。)
痩せて頬のこけた男だ…髪で半分ほど隠れてしまっているが、その目は俺を値踏みするかの様に見据えていた。
男は異様な雰囲気を周囲に放ち、まるで殺気を纏ってるかの様だった。
(あいつ、もしかして俺を狙った暗殺者か何かか?…しかしなぜ?今は命を狙われる様な事はないはずだ。)
狙われる理由を考えていたがその間も男は一向に動き出す気配がない、まるで俺が自ら死地に飛び込むのを待っているかの様だ。
(引き返すか?いやあの男の目的が分からない以上、逃げるのは下策だ。…こうなれば一か八かだ!)
このままでは埒があかないと腹を括った俺は、襲撃に備えて魔術を放つ準備をしながらギルドの扉を潜り男と対峙した。
…中に入った俺を見て男は、ニヤリと気色の悪い笑みを浮かべながらポツリと言葉を放つ。
「………ようこそ冒険者ギルドへ…」
「…へ??」
(ん?今こいつはなんて言ったんだ??)
突然かけられた言葉に動揺している俺をよそに男は話を進める。
「本日のご用件はなんですか。護衛の依頼でしたらこちらの用紙に詳細をご記入下さい…」
ボソボソと聞き取りづらい小声だ。
「えっと…もしかしてギルドの職員さん?」
一息ついて落ち着いた俺が尋ねると、目の前の男はもう一度ニヤリとした顔を浮かべて言った。
「…はい。冒険者ギルド、リーベ支部の支部長です。」
(…え、支部長?この人ギルドマスターだったのか!)
どう考えても人選を間違えているんじゃないかという目の前の男を見ながら、俺はここにきた目的を果たす事にした。