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賢者さまは見つめてる  作者: にしかぜ
2/5

1-1 王都レーベ

「ありがとうなおっさん、おかげでぐっすり眠れたよ。」


馬車がレーベに着くまでの1時間、しっかりと眠った俺はおっさんへと礼を述べた。


…しかし本当に良い操車の腕だ、大分眠っていたのに背中が全然痛くない。


現在馬車はレーベの街の南側、城門を入ってすぐの広場に停留している。


おっさんは運んでいる物のチェックがあるそうで、馬車を衛兵に預けてから俺へと話しかけてきた。


「ったく、本当にずっと眠ってやがったな…」


ジトっとした目でこっちを睨んでくる。


「まぁ眠りながらでも感知魔術で警戒していたみたいだし、ここに来るまでの道中の護衛もしっかりしていたからな…ギルドにはつつがなく依頼完了したって報告しておいてやるよ。」


おっさんは任務の依頼書にサインをしながらそう言ってきた。


「なんだおっさん魔力視できるのかよ、気づいてたんなら脅すなよな。」


…魔力視は魔術の心得のあるものなら大抵がつかえる技術の一つで、目に魔力を集中する事で対象の魔力の流れを感知するというものだ。


魔術師はこの魔力視を使って相手の次の動きを予測して魔術を当てている。


それにしても意地の悪いおっさんだ、わかってたなら脅す事なんてないだろうに…もう二度とこいつの依頼は受けるもんかと、俺は心に決めた。


「まぁこれでも昔は魔術師だったんだ、知り合いの死に際を看取るのに疲れて辞めちまったがな…それよりも今の商人家業の方が性に合ってるよ。」


おっさんは遠くの方を見て物思いに耽っているようだ。


確かに元魔術師が商人をやる事は珍しくない、魔術師は元々が高い教育を受けているし、何より人気のない山道などでは盗賊に襲われる事もある、そんな時に身を守る術があるというのは商人としては立派な才能だ。


「色々と大変なんだな…」


俺はおっさんの哀しそうな顔を見て、意地が悪いとか思ってごめんよと、ほんの少し反省した。


「まあ人に歴史ありって事よ。それに元魔術師って言っても妖異には敵わねえしな…こうしてあんちゃんみたいな冒険者に護衛してもらわにゃ、商売もままならんよ。」


妖異は生物やその死骸などが強い思念により周囲のマナを異常吸収する事で変異した化け物だ。


野生生物より圧倒的に強く凶暴で、人を襲う習性がある。


専門知識のない一般の傭兵や魔術師では退治が難しいため、商人達は妖異の専門家である冒険者に護衛の依頼をすることが多い。


おっさんは魔力視こそ出来るようだが、魔力量も体力も人並み程度のようだ、確かに道中で妖異に襲われたらひとたまりもないだろう。


「ところであんちゃんはなんでレーベに来たんだ?わざわざ護衛の任務だけ受けたって事はないだろ?」


積荷の目録を騎士に渡しながらおっさんは尋ねてきた。


冒険者にとって護衛の依頼は移動のついでだ、冒険者の収入源となる妖異の発生には波があり、俺達冒険者はその波を追って各地を転々とする、その際に護衛の依頼を受けて路銀を稼ぐのだ。


「俺か?俺は昔の恩師に手紙をもらってな。遠路はるばる会いにきたんだよ。」


懐に入れていた一通の手紙をちらっと見せて説明した。


「へえ、意外と律儀じゃねえか。無事会えるといいな。」


「意外と、は余計だ!」


心外だと講義の声を上げていたら、おっさんが先程サインしていた依頼書を封筒に入れてこちらへと渡してきた。


「それよりほら依頼書だ、サインはしといたからギルドに行って報酬受け取れよ。」


「ん?ああ、ところでこの街の冒険者ギルドってどこにあるんだ?」


俺は封筒を受け取っておっさんに尋ねた。


「あー…確か三区にあったはずだけどな、すまんな俺もこの街の事は詳しく知らないんだ。」


「そっか、まあ先に宿屋でも探して聞いてみることにするよ、そんじゃあおっさんありがとうな。」


「おう、あんちゃんもここまで護衛ありがとうよ、またよろしく頼むわ。」


俺はおっさんに手を振って別れを告げ、レーベの街の大通りへと歩き出した。



城壁都市レーベはレオニダス王国の王都として栄える歴史ある街だ。


この街の城壁は一の時代の英雄、創世王レオンハルトが当時迫害にあっていた奴隷たちを守る為に建てたとされており、その後周辺都市をまとめ上げたレオンハルト王は破竹の勢いでヴィユール統一を成し遂げ、レオニダス王国を建国する事となる。


レオニダス王国はその約三百年後に貴族達の反乱で分裂してしまう事になるのだが、レーベの街はその強固な城壁との王国の守護者たる四天騎士団の力によって、反乱軍の侵攻を何度も跳ね除けた難攻不落の街とされている。


そんな由緒あるレーベの街であるが、拡張が続けられた現在は初代王の名を冠したレオンハルト城を中心に、四つの城壁により各区画が隔たれている。


外縁部であり最も人の多い第四区画には宿屋や商店などが建ち並んでおり、そこから中心部に行くにつれ貴族や富裕層の邸宅が増えていき、第一区画には王城や元老院など国の中枢機関が集中している。


…らしい。


「ここは賑やかな所だな…」


おっさんと別れた俺は、昔読んだ「レーベの歴史―壁の向こう側―」とかいう、興味深そうな題名の本の内容を思い出しながら、一人で歩いていた。


レーベの街には東西南北に門があり、そこから中心部へと四つの大通りが敷かれている。


今いる所は第四区画の南大通りだ。


城門から続く大通りには商店や酒場などが所狭しと並んでおり多くの人々が往来していた。


通りを少し外れると人の往来も減り、宿屋やカフェなどが人混みに疲れた人々を癒している。


さらにもう少し外れの方に目を向けると、そこは今は閑散としているが何かしらのお店があるようだ。


「…なるほど、夜にでも行ってみるか。」


各地を転々としてきた熟練の冒険者としての勘が言っていた、この先は男の楽園…娼館街なのだろうと。


俺は再びここにくる事を固く決意し再び大通りへと戻り、宿屋を探す事にした。

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