叫び
こちらは百物語六十三話になります。
山ン本怪談百物語↓
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会社の同僚たちとマンションの一室で飲み会を開いた時の話です。
大きなプロジェクトが成功したということもあって、その日は全員気分よく酔っぱらっていました。
「おい、なんか隣から変な声聞こえるぞ!」
同僚の1人がそう言いながら、壁に向かって耳を擦りつけ始めました。
「みっともないからそういうのやめろって…」
私は彼を止めようとしましたが、酔っぱらって強気になっていた彼は聞く耳を持ちません。
「なんか変な声だ…隣に住んでるのはカップルかな~?」
私たちは呆れながらも彼と同じように壁へ耳を擦りつけてみました。
(…っ!!………っ!?)
壁の向こうから、男女が言い合っているような声が聞こえてきました。
「痴話喧嘩じゃないか?」
「悪いのは男か、それとも女か?」
「くっだらねぇ~」
そんな他愛のない会話を続けていると…
………ドンっ!!
壁の向こうから、何かを叩きつけるような激しい音が聞こえてきました。
ドンっ!ドンっ!ドンっ!
一度や二度ではありません。壁に何かを叩きつけるような音が何度も何度も…
「おい、なんかやばいんじゃないか?」
それだけではなく、壁の向こうから叫び声のようなものも聞こえ始めました。
「た……け……てぇ!…誰…て……たす…!」
その場にいた全員が「ヤバい」と感じた。
そして…
「………ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!!!」
全員の酔いが覚めてしまうほどの強烈な叫びでした。
「お、おいっ!救急車と警察だ!早く!」
その後はもう全員パニックです。
私たちは大家さんの元へ走ると、急いで今あったことを説明しました。
しかし…
「おかしいなぁ…あの部屋はもう誰も…本当に聞いたんですか…?」
大家さんの様子がおかしかったのは、今でも覚えています。私たちは事情を説明すると、急いで警察と救急車を呼んでもらいました。
ここで問題は解決すると思っていましたが、本当の「恐怖」はここからでした。
「えっ?誰もいなかった!?」
到着した警察官たちが部屋の中へ入ったところ、誰もいない状況で電気も点いていなかったらしい。
いや、それどころか…
「この部屋は半年前から誰も住んでないんですよ。色々ありましてね…」
その部屋は空き部屋だった。声が聞こえてくるなどありえないことでした。
私たちの勘違いかと思いましたが、どうやら勘違いでもなかったみたいなのです。
「部屋の壁に血痕を発見しました。ちょうど声が聞こえてきた位置の壁です」
警察が凹んだ壁と血痕を発見した。
血痕はまだ乾いておらず、まだドロッとした感覚が残っていたとか…
警察は一応事件として扱ってくれましたが、結局犯人が捕まることはありませんでした。
あの部屋では数年前、DVを受けていた妻が夫に殺されるという痛ましい事件があったらしく、新しく入った入居者が数ヶ月も住まない「曰く付きの部屋」になっていたそうです。
その部屋はまだ空き部屋になっているそうですが、次の人も長くは持たないでしょうね…